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【漫画原作】アクトライズ【第8話】

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駅ビル4F。クレーンゲームのピコピコ音やアーケードゲームのキャラクターの案内音声が響くゲームセンターの一角。

みらい「こ…こう?」
せんり「ちょいちょい!こう!」

おどおどと挙動不審になる私に対してせんりは慣れた手つきで腕を上げる。それに合わせて対照的になるように私も動かす。

せんり「これ腕ハートね!エモさ倍増だよ!」

せんりの綺麗なハートの傍らプルプルと手が震える。彼女のほうが身長が高いせいか爪先立ちをしないと指先が合わない。足が吊りそう…!間もなくしてカシャりと音が聞こえる。

せんり「んで!これが指ハート!顎に寄せると小顔に見えるでしょ?!」

一息つく暇もなく即座にポーズを変える。せ、せめて足だけはつけさせてくれ…!その瞬間白い光が視界を遮る。少ししてまたカシャリと音が鳴る。ま、眩しい…!

プリ機『写真撮影が終わったよ!今度はラクガキだよ!』

無機質だけど可愛らしい音声案内が撮影ブース内に繰り返される。後ろの置き台においたリュックを背負い直す。

せんり「よし!デコるよ!」
みらい「え、あ、ちょっと…?!!衣川さん?!!」

彼女は私の手をぐいっと掴む。彼女の引力は凄まじく私はなされるまま…あーれー

せんり「っぱ!プリと言ったらこれこれ!!」

暖簾をくぐった彼女は即座に機械の袖に付けられている太いタッチペンでパネルを慣れた手つきで操作する。

せんり「ここをこーで…あーしてっと…」

途端魔法がかかったかのように2人の目がとんでもなく大きくなった…!いやメイクでもこんなんにならないぞ…?

せんり「んでね~ここをちょちょいのちょいとすると…」

今度は顔がちっちゃくなった!!何だこの比率!肌も実物より綺麗になってる。これが技術の進歩…?!化学の力ってすげ~!!

せんり「なにか入れたい文字とかある?」

くるりと彼女がこちらを向く。その目は宝石を目の前にした幼子のようだった。

みらい「えっ?!いや…特に…衣川さんのお好きなように…」
せんり「そう?なら…」

と、彼女はスイスイと慣れた手つきで画面をデコレーションさせていく。

プリ機『時間だよ!忘れ物に気をつけてね!』

音声案内の言う通り取り出し口の方に移動すると1枚のシール紙が。

せんり「台…台…あった!ライライは欲しいやつある?あたしこれ!」
みらい「なら反対側貰おうかな…」

チョキチョキ、と備え付けられたハサミでシールを切ってゆく。

せんり「はい!これ!ライライの分!」

手渡された初めてのプリクラ。うさみみやくまみみのデコレーションや初プリと書かれたネオン文字が鮮やかに飾られている。そこにはさっきのわちゃわちゃがそのまま詰め込まれていてなんだかちょっと照れくさい。みんなが放課後に撮る理由なんかちょっとわかる気がする。
ちょっとしんみりしていると左腕にグイッと引力が生じる。

せんり「ライライ!あれ食べよ!」

彼女が指をさしたのは…

みらい「く…クレープ…?」
せんり「そう!ここのくまちゃんクレープ可愛いだけじゃなくてちゃんと美味しいんだよ!」
みらい「いや…でもお高いんじゃ…それに体重管理…」
せんり「ライライ!こういうのは今じゃないと出来ないんだよ!!さあ乗った乗った!!」

彼女の凄まじい引力に私は引き寄せられるままだった。
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テラスにて

みらい「…結局買ってしまった…」

私の手元にはホイップクリームとチョコで描かれた可愛らしいクマがこちらを見ている。これが放課後クレープ…。縁なんてないと思っていたがこうも容易く手に取ってしまうとは。…もしかして私流されやすい…?

せんり「見てー!期間限定いちごうさちゃん!めっちゃ可愛くない?」

クレープとにらめっこしている私の隣に腰掛けた彼女はスマホでパシャパシャとクレープを撮り始める。

せんり「ライライちょっとこっち」
みらい「ん?何?」

ちょいちょいと手招きをされ近寄ってみる。
するとパシャリと音がし画面をこちらに向けて見せた。

せんり「じゃーん!見てみて!お揃い!ほらLime貸して!」
みらい「あっちょ…」

ピロリン♪
軽快な電子音がスマホに流れるとこそには先程の写真と友達が追加されましたと書かれた通知があった。さっきから初めてばかりでなんだか心がそわそわする。

せんり「…にしても友達欄家族と公式しかなくない…?」
みらい「あー!!見ないで見ないで!!友達居ないこと漁らないで!!」

そんな見ても面白くないから!!家族と先輩くらいしか友達交換していないから!

せんり「そういやライライって誰かと一緒にいる所あんま見てない気が…」
みらい「あー!!そうですよ!!テストとか授業とか苦手な勉強頑張ったりいろんな人によく見られようとモテ要素の研究ばっかしてるのに友達の作り方は何一つわからないぼっちですよ!!!!」

ここまできたらもうごまかせそうにない…!うう…

せんり「全然素さらけだしてもいいと思うよ~。こっちのライライ面白いし」

お、面白い………?なんか先輩も似たようなニュアンス言ってたな…。私ってそんなに愉快なのか…?

せんり「でもそっか~…。ライライはしっかり自分の軸持ってそれを全うしているのか…。かっこいいなぁ」
みらい「かっこいいって…そんな大したことじゃ…」

な、なんか照れるな…先輩といい、衣川さんといい…。ストレートにそう言われるとちょっとこそばゆいな…。てへへ。

せんり「っ…!ライライちょっと伏せて…」

え…なになに?と思う暇なくせんりに連れられて植え込みの裏側に隠れる。

女生徒「でさー」
女生徒「あーわかるわかる!」

程なくしてテラスに聞き覚えのある声が来た。
先程の女生徒たちだ。あー…クレープ行くとかなんとか言ってたっけ…?

女生徒「てかさっきの成宮さん。あれ絶対陰キャでしょ」

ぎ、ぎく。陰キャというかただ友達作らなかっただけというか。

女生徒「あーいう人絶対何かしら裏あるよね~人のこと見下してそ~」

あ、なんか逆にイラついてきたぞ…?人のことそんな知りもせずに好き勝手言うのは私のポリシーに反するぞ…?

女生徒「そう言ったらせんりもじゃない?いっつもヘラヘラしてて内心何考えてるか分からないし」
女生徒たち「テンション合わせてるだけでつまらないしね~」

嵐を巻き起こしたかのような彼女らはその場をすぎる。途端せんりは方を大きく落としはあー…と大きなため息をつく。

せんり「いいですよーだ。あの子たちよりライライといる方がよっぽど自分らしく居られるわ」
みらい「確かに…衣川さん教室と今とキャラだいぶ違うよね…?」

べーと出していた舌をしまい彼女はこちらをむく。

せんり「ライライ程ではないけどね。というか人間誰しも人に好かれようと自然と演じてるところはあるんじゃない?」

確かに…言われてみれば。
誰も自分をよく見せようとして自分を作り上げることなんてざらにあるのかもしれない。
…私ほどではないだろうけれど。

せんり「けど、ライライはその場しのぎの嘘じゃない。ほんとうにそうなろうと自分から行動してるから。嘘から出た誠、じゃないけどそういうのできるのすごいことなんだよ」

あ…。その考えはなかった。
その場しのぎの嘘じゃない。
嘘は嘘だけれど誰かを傷つけるためじゃない。
先輩にも言われたけど今までの後ろめたさを掬いとってくれるような、そんな感覚がした。

せんり「そう思うと自分が情けなくなるな…」
みらい「えぇ??どうしたのいきなり」

彼女は先程と打って変わった弱音でそう言った。

せんり「…ライライは茶化したりしないよね」

彼女はぽつりとそう呟くと再び慣れた手つきでスマホを操作し画面をこちらに向けてきた。

みらい「うわ…すご…!!」

映し出された画面には幼少期に見ていたアニメの作品に扮している2人の女の子がいた。

せんり「これね私が大好きな作品で小さい時お姉ちゃんと一緒にコスプレしてたんだ」
みらい「これって…もしかして手作り…?!」
せんり「うん、そうだよ!衣装から小道具まで全部お姉ちゃんと一緒に作ったんだ!」

彼女のテンションが戻ってきた。幼い時の彼女の目と同じ表情をしている。

みらい「あれ…でも…」

画面をスクロールする。カメラロールが今に近づくほどコスプレの写真は無くなっていった。彼女は隣で小さくため息をつく。

せんり「ちょうどその頃にねコスプレの写真をクラスメイトに見られて『このアニメまだ見てるなんてせんりはお子ちゃまだ!!』って笑われてね」

彼女は手元にあるクレープを見つめる。

せんり「それからコスプレすることちょっと億劫になっちゃってね。人にも言うの躊躇うようになっちゃって。好きなことなのに…ね」

彼女らしくない少し俯きげに発せられたその言葉が小さな沈黙を作る。

みらい「なんで?好きなことを好きって言うのはいけないことなの?」

ハッとした表情を浮かべる彼女と目があう。と、思いきや彼女はまた顔を伏せてしまう。

せんり「今はいいのかもしれない。色んな娯楽があって色んな価値観があってそれぞれ大事なものなんだって尊重しあえて。けれど過去に言われたことは変えられなくて。それが例え些細なものであってもずっと胸を締め付けてる」

変えられない過去。言われた言葉。彼女のその言葉は私の心も抉る。鈍い痛みが思い出される。

せんり「だから今更自分の好きをさらけ出したところで誰かに受け止めて貰えるとかそんなこと期待しちゃうの怖いんだ」

続く沈黙。溶けかけたクリームが泣いているように見える。まるで彼女の心のように。
けど、それは違うよ。違うと思う。
私はベンチからぴょんと跳ね上がって彼女の前に立った。

みらい「私ね誰もが羨む世界一の女になりたいんだ」
せんり「いきなりスケールの大きい話が出たな」
みらい「今はまだ大きい夢なのかもしれないね」

彼女に優しく微笑む。

みらい「…私もね中学の時、言われた言葉がずっと絡まって解けなくってね。」

せんりは静かに耳を傾ける。

みらい「だから1番になってみたら少しでも変わるんじゃないか。変えられるんじゃないか。努力して頑張れば掴めるんじゃないか。今模索しているところ」

空に手を伸ばす。一番星をつかむみたいに。

みらい「正直まだそれが正解かは分からない。分からないけれど今の私のままでいいって言ってくれた人がいるんだ」

偽っている自分と本音の自分。どっちも大事なんだって、そう先輩が肯定してくれた時私とっても嬉しかったんだ。

みらい「だから」

_私もあなたを肯定したいって思うんだ。

みらい「いいんだよ。好きを好きって言って。隠さないで。私はその気持ち否定しないよ」

風がテラスを攫う。
木の葉を包んだ風は私たちをカーテンのように遮る。
少し陽気を纏ったその空気は2人の痛みを優しく包み込んでいくようだった。

それは綺麗事のように感じるのかもしれない。
それでもいいじゃないか。彼女の心に添いたい気持ちは本物なんだから。

風が止む。
また辺りには静けさが残る。
けれど空気だけはどこか違うように感じる。

せんり「っぱ!!ライライはいい女になるよ!!」
みらい「ぐへぇ…!いきなり叩かないで衣川さん!」

スパーンと軽やかな音と共に背中に鈍い痛みが走る。

せんり「…せんり」
みらい「え?」
せんり「せんりって呼んで。ライライ」

彼女の憂いを帯びた真っ直ぐなその瞳は私を心の奥から見つめているような気がした。

みらい「…うん。分かった。…せんり」

小っ恥ずかしくなってしまい俯く。ちらっと目を上げ彼女の顔を見る。彼女は陽の光に照らされて潤んだ瞳がより一層輝いて見えた。

せんり「…うん!改めてよろしくね!ライライ」

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放課後 被服室前

せんり「え~もう帰ろうよ~」
みらい「話聞くって言ったじゃん!」
せんり「お姉ちゃんに聞いたら色々大変だった~って言うんだもん~」

昨日と打って変わって弱腰になっているせんりの腕を引っ張る。

みらい「もしそうだとしてもせめて6月末まで…!そしたら一緒に他のところ探そ!」
せんり「そこまで言うならしゃーないかぁ…」

渋々顔のせんりをぐいと引っ張り被服室に入る。

みらい「先輩来ましたよー!…って、あれ?いない?」
???「ん?成宮クンじゃないか?どうしたんだ」

その声は…!

みらい「ま、真山先輩!!部室にいるなんて珍しいじゃないですか?!!」
あかり「珍しいも何も…。今まであんま来なかっただけで部員だろ…?これからの準備のために来たんだ。何もおかしいことは…」
真山先輩が何やら部室のダンボールを持ってる。あ…これ学校新聞のやつか。先輩が「このダンボールをどかさない限りこれ以上掃除ができん!!」とかプンスカしてたもんな…。

せんり「ライライ~?この人が例の先輩?」
みらい「あー…えっと違くて…」
かなた「あれあれ?もしかして例の新入りちゃん?かわいいね~放課後僕とデートなんてどう?」
みらい「あ、天音先輩まで…!さらっとナンパしないでください!」

小柄な真山先輩の後ろからひょいといつも通りひょうひょうとしている天音先輩が覗かせた。なんだなんだ。今日はやけに人が居るな…。彼もダンボールを持っているのを見る限り手伝いでもしていたのだろう。あー…ようやく部室が片付こうとしているのか…ここまで長かったなぁ…。
…そう思っていた時ヒラリ、と何かが落ちた。

せんり「あ…落ちまし……」
みらい「……せんり?どうした固まっ…?!!!」

彼女の手元にあったのは一刻も早く消したい黒歴史その2、お姫様抱っこの写真だった。

みらい「ちょっと?!!どういうことですか真山先輩!!処分してくださいって頼みましたよね?!!」
あかり「いや…今ちょうど片付けている途中だろ…」
みらい「ずっと部室に置きっぱだったんですか?!!」
かなた「2人とも写りいいね~」
みらい「天音先輩も勝手に除きこまないでください!!」

ほら~!!せんりも固まっちゃってるじゃん!!
早く回収しないと…。

むげん「なんだ…今日は妙に騒がしいな…」

横からさっきまで居なかったはずの声が聞こえて少しビクついてしまう。先輩いつの間に…?!いつもは聞こえるはずの戸の音が聞こえなくて気づかなかった…。
ようやく来ましたね!!待ってましたよ!!と言いたいところだけど今はせんりをどうにか…。あれ?なんか先輩を見た途端目がさっきよりも輝いて…。ん?今度はこっちを見てきた?と思ったら今度は写真…?…なんかさっきから私と先輩と写真交互に見比べてない…?

せんり「……待って。こんなんカプ厨大歓喜じゃん……!」

…今なんて言った?手で顔覆ってたから聞き取れなかったんだけど…。彼女は急に立ち上がり真山先輩の目の前に立つ。

せんり「…あの…つかぬ事をお聞きしますが…その…似たようなものって他にもあったり…」
あかり「…なるほどな。うん。キミがこの部に入ってくれればいくらでも」

2人が何やらヒソヒソ声で話している…!!ちょっと聞かせて!!なんかとっても嫌な予感がする!!

かなた「交渉成立だね~」

そんな呑気に見守ってる場合ですか天音先輩!!ってか交渉成立ってなに?!!
次の瞬間せんりの手が勢いよく上がる。

せんり「はいっ!!衣川せんり!!只今をもちまして演劇部本入部致します!!」
みらい「ちょっ?!!せんり?!!さっきの弱腰はどこ行ったの?!!」
せんり「ライライ…時には思い切りって大事なんだぜ?」

彼女は親指をぐっと突き出し舌を出してウインクを向ける。いや!!てへぺろじゃない!!

むげん「……ほんとか?!!!衣川!!君が入ってくれるのならこの部は安泰だよ!!!」
せんり「任せてください!このせんり。お姉ちゃんの名にかけて衣装美術、2人の行く末見守り隊。なんでもござれです!」

あーもう!先輩まで目キラキラさせないでくださいよ!!それに衣装美術は分かるけど2人の行く末見守り隊って何?!
うぅ…もうツッコミ疲れたよ…。
またしても波乱ばかりなこの演劇部。ほんとにこんなメンツばかりで劇成り立つの…?

むげん「ようやくだ。ここからがスタートラインだ!」

被服室はいつもより賑やかで少し暖かくなった春の陽気に包まれた。

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というわけで…

東和高校演劇部メンバー揃いました!!

ドンドンパフパフ
(ほんとは集合カット用意したかったけどまたの機会に…)

といっても5人で演劇とかなかなかに無理があるものですが彼女彼等ならきっとやってくれるでしょう。

以前にもお伝えした通り現在出版社への投稿作を同時並行で制作しており、キャパオーバーを防ぐためこちらの更新を一時停止したいと思います。
新規展開はしばらくお待たせすることになります。ご了承ください。
しかし彼女彼等と触れ合ってるとこの子こっちの方が映えるなとキャラが弱くて設定変更したい子が出てきましてね…。本編読んだ通りお分かりだと思いますが…


天音かなたのリメイクします。(この話も2分割します)
それに伴い見た目から全てガラッと変わるので今の彼が好きな方は今のうちに焼き付けてくだちぃ…。
こちらの更新は修正次第投稿する予定なので2話とも今年中に更新できたらいいな~と思っています。

現在こちらのアクトライズがありがたいことに創作大賞の最終選考中なのでその結果次第でまたいろいろ変わると思いますがどんな形であれ描ききるのでよろしくお願いします!ちなみに今は漫画を描くことが楽しいので続きは原作という形ではなくネーム等漫画での形で…という可能性が大いにあります。文章体好きな人はすみません…。
それでは!

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