アクトライズ 閑話休題
雨。
じとじととしめった空気はいくら窓を開けても循環しない。少しひんやりする程度だ。
電気も消してジメジメしたこの空気に身を委ねて今月あったことを振り返る。
つくづく最低な自分だなと思わず顔を覆う。
あぁ消えたい。居なくなりたい。
延々と続くこの病の苦しみから抜け出したい。
思えば思うほど心の中がどんよりとしたマーブル模様になる。空気は少し澄んでいるはずなのに息が苦しくなる。
不意に枕が濡れる。無意識に涙とこの思考回路は止まらない。
もう、このまま産まれてこなかったことにならないかなと頭によぎる。
そんな時、ふと陰が私の頭を覆う。
みらい「カントク!こんな所で何やってるんですか!!」
腰に手を当て少し拗ねた顔で彼女は私の顔を覗き込む。
みらい「もぅ!センパイ達張り切っちゃってますよ!『今度の演出こそ最高の舞台にしようぞ!』って」
ははっ。ごめんごめん。
さっきまでの泣きっ面を直ぐに繕い彼女に笑顔を向ける。
けれど上手く繕いきれなかったのだろうか彼女は少し暗い面をこちらに向ける。
みらい「私たちは知っています。カントクがずっとパソコンの前に座れないことも。ベッドの上で天井を見ることしか出来ない日があることも。それでも私はあなたがとったメガホンでこの舞台を演じたい。あなたの舞台で『成宮みらい』になりたい!!」
くるりと小さな背を向け大きく広げたその腕はまるで天使の羽のようだった。私の存在を肯定してくれるやわらかい白だった。
彼女はそのまま笑顔をこちらに向ける。
みらい「だって連れてってくれるんでしょ?私たちを演劇の頂点-アクトライズ- へ!!」
あぁ、そうだ。いつだって彼女は彼女等は私の手を引っ張ってくれる。
どんな光の見えない底に落ちてしまってもそばに居ることを忘れさせないでくれる。
夜道の星と月のように暗夜の心を照らしてくれる。
1人じゃない。
そういつだって伝えてくれる。
そばにいることを教えてくれる。
君たちがいる限り私は簡単には死ねない。
生きるという枷をかけてくれるのだから。
むげん「成宮!そろそろ稽古つけるぞ~」
みらい「わわっ!呼ばれちゃいました!カントク!待ってますからね!」
天使はそのまま彼等の方へと駆け出していった。
人生とは物語だ。
そして物語とは人生だ。
わからなくなったら知らせればいい。
見えなくなったら照らせばいい。
聞こえなくなったら流せばいい。
舞台はいつだって死なない限り流れ続けているのだから。
「大丈夫。君たちのその青春の瞬間は最後まで撮りきるから。」
そう言って私はメガホンという名のペンを持ち彼女等の方へと歩み出す。