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1994年に電子音楽の深淵に光を投げかけたアルバム   by Igloo magazine

https://igloomag.com/reviews/susumu-yokota-acid-mt-fuji-remastered-30th-anniversary-edition-sublime                     
                                                                                             

1994年、テクノの革新と深遠なる探求の年


ススム・ヨコタの1994年のアルバム『Acid Mt. Fuji』は、その登場時より予想を超えた驚きとともに、時を経た今もなおその独自の光を放ち続けています。電子音楽の歴史におけるこの作品は、単なる再発にとどまらず、真摯な芸術への賛辞であり、時代を超えた価値を秘めています。

テクノの闇を貫く光

1994年という年は、電子音楽の新たな時代の幕開けを告げる重要な時期でした。ジャンルの境界がまだ曖昧であり、世界中で創造的な試みが行われていたこの時代に、ススム・ヨコタはその先駆者の一人として名を刻みました。アメリカやヨーロッパの音楽が容易に手に入らなかった日本において、彼は独自の影響を取り入れ、富士山という神聖なモチーフからインスピレーションを得た作品を生み出しました。

Sublimeから初めてアナログ盤でリリースされた『Acid Mt. Fuji』は、オリジナルのアルバムに加え、CD版にのみ収録されていた5曲を含む再発です。すべての音が愛情を込めてリマスターされており、アーティストとアルバムに対する敬意が表されています。

アルバムの冒頭、「Zenmai」では、鳥のさえずりと水の反響が心に響き、手で演奏されたドラムがその調子を変え、暗い色合いを醸し出します。フィールドレコーディングが主軸となるこの作品では、トリルや口笛、うめき声が繊細な弦楽器や威嚇的なトーンと融合し、深い心理的な空間を形成しています。曲名には、富士山の登山に対する直接的な言及があり、「Meijijingu」は神社を連想させるなど、想像と現実が交錯するアンビエント・テクノの新境地を開いています。

リスナーは、物理的な打撃と夢幻的なサウンドスケープの二つの領域を行き来する感覚を味わいます。特に「Saboten」ではリズムパターンが観客を引き込み、ヨコタのテクスチャーがメロディーを巧みに導きます。「Oh My God」では、霧と煙の中で自由に漂うキーが祈りの呼びかけのように響き、聴く者の心を揺さぶります。

「Tambarin」では、変化が顕著に表れます。シンバルとグレーティッド・グルーヴがフランジャーで処理され、クラップが群がる打楽器駆動の作品に変化します。リスナーは、原始的な火山の奥深くに位置する隠れたクラブに迷い込んだかのような感覚を味わうでしょう。「Oponchi」ではボンゴとトムが躓きながら進み、「Ao-Oni」では酸で焦がされた大胆なサウンドが際立ちます。

アンビエントとテクノの交錯

本作は、テクノの深淵からアンビエントの明るさへと繋がる微妙なバランスを保ちつつ、どこに導かれるかわからないという感覚をリスナーに提供します。特に「Akafuji」では、光線がゆっくりとしたグルーヴを貫き、「Alphaville」では部族的な打撃とドラムの洪水が再び現れます。「Tanuki」ではフィールドレコーディングとサンプルが重要な役割を果たし、コオロギの鳴き声とパーカッションが融合し、楽器の広がりを示します。

『Acid Mt. Fuji』はアンビエントとテクノの絶妙なバランスを保ちながら、このエディションの追加5曲は機械的なリズムに傾きます。「Floating」は例外で、都市の風景の中に自然のノスタルジックな要素が巧みに埋め込まれています。最後の四重奏では、音が叫び声のような打撃に成長し、スピーカーのコーンが震えるほどの迫力を持ちます。特に「F」と「2 H」は、その激しさと情熱が際立つ作品です。

2015年、ススム・ヨコタが亡くなった際、彼が残した音楽カタログのスケールと深さは驚異的でした。この1994年のアルバムは、初めてリリースされた時から期待や意見を超え、30年後の今もその影響を持ち続けています。アーティストの独自のアプローチに対する敬意を込めた、電子音楽の美しい再発として、その価値を改めて証明しています。

<視聴>⇒https://x.gd/8JYr1
<ストリーミング> 
   https://SusumuYokota.lnk.to/240906
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<BANDCAMP>⇒https://x.gd/y0XNF

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