公募の「あらすじ」について


1.前置き

 小説や戯曲の賞に応募するとき、「あらすじ」を求められる。それは概要であったり、梗概であったりもする。いずれにしても、ほぼ必ず求められると言ってもいいだろう。
 まずひとつ大前提として、「あらすじ」という言葉が世間では「コピー」として扱われているが、公募において求められるあらすじとはそれではないことはほとんど共通しているだろう。コピーというのはキャッチコピーとかいうあれ。ボディコピーに近いものだろう。
 で、基本的には公募におけるあらすじは、コピーではなく、筋をしっかりと書いたものだろう。つまり、「突然出会った二人。ここからトムとジェリーの恋はどうなるか!? ドタバタラブコメディ」みたいなものは、あらすじと言えない。どうにかなるのなら、どうにかなるところまで書かなければならない。おそらく、これは基本的な理解としてよいだろう。

2.創元SF短編賞における梗概

 創元SF短編賞の第15回の募集が始まったが、そこで梗概についての説明書きが変わっていた。まず、第14回のものを引用する。

梗概は、著者ご自身が作品の内容や構造を明確に把握しているかどうかを確認するためのものですので、伏線や結末も伏せずに書いてください。

http://www.tsogen.co.jp/award/sfss/14th/

 私はこの文言が好きだ。とても分かりやすい。なんのために、なにを書けばいいのかがはっきりしている。戯曲賞なんかを見ると、特にこういった説明がなく、何を書いていいか分からない人も多いだろう。
 好きであったのだが、変更されてしまった。第15回のものは以下。

梗概とは作品のあらすじです。伏線や結末も伏せずに書いてください。執筆意図の説明は不要です。

http://www.tsogen.co.jp/award/sfss/15th/

 ずいぶんと変わってしまった。執筆意図の説明が不要ということが、重要であったのだと思われる。執筆意図の説明を書いてくる応募者が多かったのかもしれない。
 どうして上の説明から執筆意図の説明を書くのか、私としては理解に苦しむのだが……。「作品の内容や構造を明確に把握しているかどうかを確認」に対して、「私は作品の内容や構造を明確に把握している!」ということを書いてしまったのだろうか。
 いずれにしても、創元SF短編賞のように受賞作のレベルがあれだけ高い賞において、こんな注意書きをしなければならなくなったのは、私はとても悲しい。

3.戯曲賞における概要

 ところで、戯曲賞における概要は「あらすじ」が求められていないことも多い。何を求められているのかは書いていないので分からないのだが、最終候補に残る作品で概要が公開されているものを見ると、そこにはあらすじではなくむしろ、執筆意図の説明が書かれていることも多い。
 そういうわけで、私は賞によっては執筆意図を書く。劇作家協会新人戯曲賞においてはおそらく明確にあらすじを求められていると思うので、あらすじを書く。AAF戯曲賞や、かながわ短編演劇アワード戯曲コンペティションは執筆意図を書いても構わないと判断できるので執筆意図を書く、というふうに。
 戯曲賞を少し確認してみよう。

 明日、2023年1月28日に公開最終審査会が行われるAAF戯曲賞。こちらの候補作5作品が公開されている。見たところ、ちゃんとあらすじと呼べるものを書いているのは1作品しかない。執筆意図や、アピール文が多くみられる。
 これが良いということでも悪いということでもなく、傾向として、ポストドラマ寄りの戯曲賞では、あらすじを書くということがそれほど重要ではなくなってくるのだろう。重要なのは筋ではなく意図、という解釈。いや、もちろん本当のことは分からないのだが。

4.劇作家協会新人戯曲賞におけるあらすじ

: 「あらすじ」はどうしても必要でしょうか? 「あらすじ」だけを読んで審査されるのではないかと心配です。
: 戯曲を読まずに審査する審査員はおりません。戯曲を読むときの「見取図」として「あらすじ」を参考にしています。ですので作品の最後までのあらすじをお書きください。

http://www.jpwa.org/main/activity/drama-award/qanda

 劇作家協会新人戯曲賞のQ&Aに上記のものがある。あれだけ下読みが毎回入れ替えがあるのに、戯曲を読まずに審査する審査員がいないということをなぜ断言できるのかは定かではないが、それはともかくとして、あらすじは最後まで書いてと書いてある。第14回までの創元SF短編賞の文言の方が私は好ましく思うが、一応これも意図は説明されている。(Q&Aだと見ない人いそうなので要項に書いたらと思うが)
 この賞に応募するにあたって「コピー」や「執筆意図」を書くのはおそらく間違いだろう。もちろん下読みの人がどう判断しているかは分からないが。

5.結論


賞によって違うから、
何のために、何を求めているのかは、書いた方がええんちゃうかなあ。
書いてるのに違うものを書いてくるのはもう、あれや。うん。
はい。

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