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『夕焼けと、この一冊』

休日の午後、部屋の窓から西の空を眺める。 冬の夕焼けは、なんだか懐かしい色をしている。 ゆるやかにオレンジから紫へと溶けていくグラデーションを見ながら、ふと頭に浮かぶ本がある。

『三丁目の夕日 夕焼けの詩』

西岸良平が描く、昭和の風景と人々の暮らし。何度も読んだはずなのに、ふとした瞬間にまた手に取りたくなる。
昭和の温かさが詰まったそんな漫画。

古びた町と、優しい時間

この漫画を初めて読んだのは、幼稚園に入る前だった。
父が昔から好きだったようで寝室にあったのを覚えている。

幼い頃といえば
寝る前に読み聞かせて貰うのは「絵本」と相場が決まっているが、
私はこの「三丁目の夕日」だった。
あとは『笑ゥせぇるすまん』(笑)
先に高層ビルが建ち並ぶ前の下町。
駄菓子屋のおじさん、銭湯の湯気、夕暮れの商店街、メンコで遊ぶ子どもたち——懐かしいのに、自分は経験したことのない時代。

不思議だ。
生まれる前の風景なのに、心温まる。
たぶん、それはこの物語に流れる「人の温度」のせいだと思う。

何も考えない日常が、宝物だった頃

『三丁目の夕日』には、
大きな出来事や事件が印象的に描かれているわけではない。
そこにあるのは昭和の暮らし。
だけど、どの話もじんわり心に残る。
ファンタジー要素のエピソードもあり、
わたしはそれも大好きだ。

猫や犬が喋ったり
おばけとのエピソードも出てくる。

5円玉を握りしめ駄菓子屋で買うお菓子
量り売りの調味料。
冬は暖をとるためどこの家庭にもあった火鉢。
氷屋さん炭屋さんが家庭を周り
都会に憧れて家を出てきた若者が、上手くいかない事ばかりで
故郷を懐かしんだり。

憧れる量り売りの調味料たち、瓶を持って買いに行きたい。

派手な展開もないし、特別な言葉があるわけでもない。
でも、ページをめくるたびに「いいなぁ」と思ってしまう。

それはきっと、
現代には「失われてしまったもの」が
たくさん詰まっているからだろう。

スマホやSNSなんてない、
ましてやテレビもまだ珍しい時代。
ラジオやレコードを聴いて過ごす時間。
隣に住む人の顔を知っていること。
お店のおじさんが名前を呼んでくれること。
夕暮れ時、商店街を買い物する奥様たち、
夜はみんなで食卓を囲んで一日の出来事を話す。

こんな「当たり前」だったはずの日々が、
今は非常に贅沢に思える。

この本を読むなら、こんな時間に

この漫画を読むのにぴったりなのは、やっぱり夕暮れの時。
コーヒーよりも、熱いお茶がいいかも。
夏の午後に畳の上で読むのもいい、
昔ながらのラムネや麦茶が似合うかもしれない。

あとは、仕事や学校で疲れた日の夜。
部屋の電気を少し暗くして、布団にくるまりながら読めば、
きっと気持ちが解けるはず。

ページを閉じて、また明日へ

本を閉じる。窓の外は、もう夜の色だ。
昭和の時代は遠くなっていくけれど、
人の温かさは、たぶん今も変わらない。
そう思いながら、また一日が終わる。
さあ、明日も頑張ろう。



ーあとがきー

漫画「三丁目の夕日」が好きすぎて
どうしても映画は好きになれませんでした。
漫画の雰囲気が別物になってしまったようで….
私は、西岸良平さんが描くキャラクターと
そこに流れる雰囲気がだいすきなのです。
心を満たしてくれる
そんなあったかい漫画です。

昨今
憧れを抱く人も多い
「丁寧な暮らし」
「使い果たす習慣」
「不便を楽しむ」
など
その全てがこの漫画の中に詰まっています。

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