パッシブファンドって結構アクティブ
ボーグルさんが生み出した、「インデックスに投資する」という大発明、インデックスファンド。これ、アクティブファンドに比較してパッシブファンドとも呼ばれます(正確にはインデックスファンドはパッシブファンドの一部だと思いますが、ここでは一旦同じこととさせてください)。が、実態としてアクティブファンドがアクティブで、インデックスファンドがパッシブか、というと違う、というか、むしろインデックスファンドは結構アクティブなのではないか、というのが今日のお話。
パッシブがアクティブな理由1:成績がアクティブ
まずパッシブファンドがなぜパッシブと言われているのはアクティブファンドがあるからで。で、じゃあアクティブファンドがなぜ「アクティブ」なのかというと、通常マーケットに期待される利回り以上の利回りを投資家にもたらすために「腕利きの」運用担当者が、活動的に(=アクティブに)運用を行うから、なわけで。
ということは、アクティブ=マーケット以上、なわけですが、実はアクティブファンドのほとんどはマーケット以下の成果しか上げられない、というのは有名な話ですね。
ということは。アクティブファンドとパッシブファンドすべてのファンドの平均成績を取るとするならば、パッシブファンドは常にその平均(=マーケットの期待値)を上回ってきた、ということになります。
あれ?ということは、ファンドマーケットの平均以上の利回りを得る(=アクティブファンドのレーゾンデートル)ためにはパッシブファンド、という、奇妙なことになりますね!?
と、まあ、ここまではよく言われることですが、ここでは更に3つ理由を加えたいと思います。
パッシブがアクティブな理由2:パッシブ運用の担当者がアクティブ
パッシブファンドの目論見書とか読んでいると、大体「XXインデックスに連動することを『目指す』」と書いてありますよね。私これにはずっと違和感を感じていました。だって「目指す、なんて努力目標みたいなこと言わないでさ、淡々と連動してくれればそれでいいのだよ」と思っていたからです。なんなら、パッシブファンドなんて完全に機械が運用すればよいのだから、担当者が介在する余地なんてない、とすら思っていました。しかしそれは私の想像力の欠如だったのです。
実はパッシブファンドの運用担当者がやっていることはそれはそれですごいことで。例えば今流行りのeMaxis Slim米国株式。これってS&P500に連動することを「目指す」ファンドですが、組入銘柄は微妙に473種とかだったりして、実は完全にS&P500とイコールではない。また、このファンドには日常的に資金流入も流出もあります。本来S&P500に機械的に連動させるならば、誰かがeMaxisを1単位売買するたびに、S&P500を構成する銘柄をすべて売買しなければならないはず。でもそんなことできません。だから、運用担当者は、「ほぼS&P500と変わらない状態を維持しながら、いかに最小コストで売買をするか」ということを考えて、銘柄を絞って売買したりするらしいです。その結果、ちょっとだけですがファンドとインデックスそのものはずれる。このズレとコストを最小減にする工夫を、「腕利きの」運用担当者が行っているらしいのです。つまり、目指す成果はインデックスですが、やっていることはアクティブなわけだと。
パッシブがアクティブな理由3:インデックスが実はアクティブ
S&P500って、当然「すべての株」ではありません。一定の基準で500に絞っています。そして、その基準に基づいて四半期に一度銘柄が入れ替えられます。で、その条件とは
米国企業
時価総額が 53 億ドル以上
流動性が高く、浮動株が発行済株式総数の 50% 以上
4 四半期連続で黒字の利益を維持している
1はまあいいとして、2,3,4って結構厳しい条件じゃないでしょうか。つまりS&P500銘柄に採用される、そして銘柄であり続けること自体が難しいことで、そして業績が悪化した株は新たに勢いがある株と入れ替えられるわけです。
ってことは、S&P500という指標自体が、選定基準そのものにかなり意思が込められている、よりすぐりの指標なわけで。このような選定基準そのものがアクティブなインデックスに連動するファンドは、実は結構「アクティブ」な要素を持っていると思うのです。
パッシブがアクティブな理由4:パッシブを選び続ける行為がアクティブ
でも。やはり、「アクティブファンド」のコンセプトは魅力的です。同じ投資をするのならば、より高いリターンを期待したくなるのは常でしょう。もちろん「ほとんどのアクティブファンドは負ける」のですが、「すべてのアクティブファンドが負ける」のではないのです。一部のアクティブファンドは長期に渡ってアルファを得続けています。
が。その魅力につられてアクティブファンドに手を出して結果的にうまく行かなかった、という歴史を、たくさんの投資家が経験していますし、それは今もなおそうだと思います。おそらくこれから先もそうでしょう。
この、アクティブファンドの魅力に打ち勝って、「うさぎと亀」の亀になりきる硬い意思でインデックスファンドを長期持ちするのは、結構簡単じゃないです。リーマンショックやコロナショックがあったように、暴落は実は結構頻繁に起こります。そこで「ああ、やっぱり投資なんてするもんじゃなかった」と持ち残高を処分してしまうと、そこで損が確定します。
逆もあるでしょう。今みたいに半導体関連の大型株だけが値上がりしているのを見ると、「やっぱりそのような先見の明を持ったアクティブファンドにしておけばよかった。それに比べて自分のインデックスファンドの成績はぱっとしないなあ」と思ってしまいます。
どちらにおいても右往左往せずに淡々と積み立てていくような意思がないと、インデックスで勝っていくことはできないわけで。ということは、並み居る幾千のファンドの中から、インデックスファンドを選択し投資し続けるという意思決定そのものが結構「アクティブ」な意思決定とも言えるのではないかなー、と思った次第です。