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ゆったりとした空間で苔テラリウムづくり~秋川渓谷の「苔庵」インタビュー~

都会で働いていると時々無性に自然が恋しくなる。実は、東京の西端は、「秩父多摩甲斐国立公園」に続く大自然があり、気軽にショートトリップができる場所が多くある。奥多摩と高尾に挟まれて知名度が高くないが、秋川渓谷は水質が良好の清流と地形による苔の「癒し」が楽しめる。そこで今回は「苔庵」のオーナー上垣さんに、秋川渓谷の魅力を取材してみた。


身近にある「苔」で地場産業を

山歩きやサイクリングに人気な秋川渓谷

東京とは思えないほど自然豊かな秋川渓谷。東京西端のあきる野市に位置し、都心から電車または車で約1時間程と利便性も良く、70年代のレジャーブームには早くに観光地化した。今も、休日には山歩きやサイクリングの客で賑わいをみせている。

その中でも清流・養沢川が流れる養沢エリアは、奥地には複数の美しい滝や鍾乳洞、ホタルの生息地があり、「東京最後の秘境」といわれている。また、登山者たちの楽しみである温泉「瀬音の湯」があり、廃校を利用した体験施設「戸倉しらやまテラス」や里山風景を楽しめるカフェなどが点在している。

武蔵五日市駅から養沢川を上り車で15分の古民家。ここ「苔庵(COQUEA)」(以下:苔庵)は、苔の観察をしながら見て歩く「苔ウォーク」や、自分の選んだ苔を「苔テラリウム(モステラリウム)作り」のイベントを行っている。

苔庵の中は、様々な製作品や材料が並ぶ玄関を抜けると、大きな作業用テーブルがあり、その奥には大きな窓に色づき始めた紅葉が見えた。まさに「アトリエ」という雰囲気がふさわしい。

オーナー上垣智弘さん(以下、上垣さん)は、あきる野市の観光アドバイザーに就任し観光振興計画に関わっていた。渓谷という資源を最大限に活かし、レクリエーションに近い観光を進め、観光協会の青年部と一緒にアウトドアフェスを開催するなど活動してきた。

「観光振興のお手伝いをしていた時に、あきる野市の「活性化委員会」のアドバイザーになり、その後ここに移住してきました。養沢の住民がどういう場所にしたいかとという話をした時に、やっぱり”住み続けたい” と思っている人が多い。」

上垣さんはもともとの出身は兵庫県の山深い旧大屋町。仕事で観光の仕事を手伝ううちに、この場所に移住した。

「“住み続けたい”をどう実現するかというと、産業がないといけないので、今あるものを活かして何か産業化できないかと考えて、それまであまり活用されていなかった「苔」に注目し、「苔庵coquea」をはじめました。「苔」は、ちゃんと取り組めば地場産業になるんじゃないかと。」

ゆったりとした空間で作る「苔テラリウム」


東京とは思えないほど清らかな秋川渓谷

養沢は、地形の特性上湿度が高く、苔の種類が多く、「東京の奥入瀬」とよばれることもある。この渓谷だけで60種類ほどもあり、沢沿いに歩くと素人目にも様々な苔が目に留まり、一面に広がる緑の世界を楽しむことができる。

「苔ウォーク」では、実際に沢を歩きながらルーペを通じて苔を観察する。ルーペを通じて、その姿は様々なことが分かる。ツリー状のもの、金平糖のようなもの、クジャクの羽のようなもの…。

「苔テラリウム」は、自分の気に入った苔を選び、ガラスケースに飾るクラフト。大小の石や砂、ミニチュアの人形なども用意されており、そこに自分だけの小さな世界を作る作業。特に、女性や家族連れに人気で、体験では一日のんびりと過ごす方が多いそうだ。

 

小さな世界を演出する

「苔」の人気は、その見た目の可愛らしさだけでなく、「枯らしにくい」というのも体験のハードルを下げるポイント。苔は、ただ乾燥するだけなら「休眠」状態で、水をかけると「復活」、暑くて乾燥した時には枯れてしまう。(※一部、直射日光に強い苔もある)

「いま、新しい試みとして下が空いているケースを考えています。下に水を張っておくだけで苔の毛細管現象で水が上がってきます。この形だと郵送ができるので、これを作るためのキットを考えています。苔を詰めるだけなので、誰でもできる仕様になっています」

今では、前に比べて都内などでも「苔テラリウム」の店やイベントが増えてきてはいるが、このゆったりとした時間が流れる空間で作る作業は、また格別な体験になる。

誰しもがモノづくりできる場所を

体験スペースの隅では消しゴムはんこの作業が行われていた

「苔庵」の体験としては、他にも「消しゴムはんこのトートバックづくり」や「生豆からの珈琲焙煎」など、様々な体験を行っている。苔の体験イベントと消しゴムはんこの講師、そして、フェアの提供も、いずれも上垣さんが担っている。元々学生の時からものづくりに関心があり、消しゴムはんこは40年以上やり続けている。

 さらに、「苔庵」の活動とは別に、「秋川クラフトマーケット」の委員も担当しているほか「東京十二木」という木工クラフトの活動もしている。3、4人ほどの作家が参加し、東京多摩の木の廃材を活用した作品創作を行っている。
 
さらに、生まれ故郷の兵庫県大屋町にも、アートクラフト関係で手伝いをしているという。「誰しもが、なにか創作できる、広い意味でアートに関われるスペースがあるということはとても大切だと思うんです」と上垣さん。

秋川渓谷と養沢の魅力について 

長らく観光コンサルタントとして働き、「苔庵」やそのほかクラフト活動など広く活動されている上垣さんに、地域の魅力について伺った。

「地域を魅せるというには3つの方法があると思います。一つ目は、もともとポテンシャルがあるものを磨く、魅力的に見せること。二つ目は、新たに魅力を作ること。そして三つ目は、活動しているその人自身が地域の魅力になること。 」例えばと、各所をつないでツアー企画をされている「裏山ベース」主宰のジンケン(神野賢二)さんの名前を挙げる。


下流の河原と丘陵

「ここの魅力については、いろんな環境があるというところですね。山もあるし里山もあるし川辺もあり、もちろん町もある。すぐ行けるコンパクトにまとまった自然環境がある。河川敷あたりには水田や畑もある。 また、「ヤマニファーミング」という農業コミュニティ組織を運営しているところでは、農業に興味のある方や外国人の方が毎週のように体験しに来ていますね。」

お話を聞きながら、どんどんと地域で活動する方々の名前が挙がり、人のつながりが確かにある地域であることがうかがえた。また、ちょうど取材した日に町づくりを皆で話し合うイベントがあるというので、予定外ではあったが、これもご縁ということで参加をさせていただくことにした。

地域の魅力の一つにあがっていた「人」について、上垣さん自身も間違いなく、その一人だと筆者は感じた。

苔庵(COQUEA) 
〒190-0171 東京都あきる野市養沢1134-イ 
体験は予約制/HP記載のお問い合わせもしくはじゃらんネット         Facebook:https://www.facebook.com/coquea.yozawa 

【Profile】 苔庵coqueaオーナー 上垣智弘さん
兵庫県の(旧)大屋町出身。大学で建築学やものづくりについて学び、まちづくり系のコンサルタント会社に入社。あきる野市の観光アドバイザーに就任し観光振興計画に関わり、あきる野市へ移住。現在は、「苔庵coquea」を運営するかたわら、「秋川クラフトマーケット」や「東京十二木」の活動に参加している。


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