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セナのCA見聞録 Vol.46 美味しい台湾 前半

台湾ベースのクルーに欠員がでました。

台湾からは毎日サンフランシスコへの一便だけが飛ぶのですが、限られた乗務員数の中で欠勤者が多く出て乗務要員数が足りなくなると、成田ベースから助っ人が送られることがあります。

こういう時に使われるのが、リザーブ(待機要員)です。スケジュールがリザーブの時は、電話がかかってきたらすぐに空港へ向かう準備ができていなければなりません。

この日の午後、私は家で同期友達の良子と電話で話をしていました。

「今のところ会社から電話もかかってこないし、コンピューターで今日の残りのフライト全部チェックしてみたけど、あんまり呼ばれる可能性なさそう。だから、今日は自宅待機のまま終わりそうな感じ。」

「ふ~ん。そうだといいね。ところで私ね、あさってからオフを利用して台湾に遊びに行くんだ。優子と一緒に。大学時代の同期が今あっちに駐在していてね、案内してくれるっていうから。」

「そうなんだ。仕事でもプライベートでもほんとよく飛ぶね~。あっ、ちょっと待って。キャッチが入った。また後でかけ直す、ごめん。」

と彼女との電話を一旦切って、キャッチホンを取ると会社からでした。

「あなたのフライトが決まりました。今日の夕方の便で台北へ飛んで、明日の朝出発のサンフランシスコ便の往復をして下さい。台湾へ戻った後は一泊レイオーバーして翌日の便で成田へ戻る。合計六日間のフライトです。コードはxyz。では、気を付けていってらっしゃい。」

成田―台北、台北―サンフランシスコ、サンフランシスコ―台北、台北―成田という4レグ(区間)です。

こんなアサインメントは初めてでした。

リザーブならではのおいしいフライトが入ったといえます。なぜなら、サンフランシスコから台北へ戻った翌日は契約に従って24時間の休息が与えられるので、成田へ戻る前に台北で丸一日自由な時間ができることになるからです。

いつものとんぼ帰りのフライトとは違います。しかも、この日程は今電話で話をしたばかりの良子の台湾滞在日程とばっちり重なるではありませんか。

「わお!こんなことってあるの?」

とびっくりしながら、彼女にすぐに電話をかけなおしました。

さっき良子と話しした3分後に、まさか私も台北に行くことになるとは!

全く信じられないことでした。

「そうなの?台北に飛ぶの?ほんとに?」と彼女もびっくり。

私は到着時間とホテル名、そしてホテルの電話番号を伝えました。良子は

「じゃあセナがホテルに到着する頃にロビーで待ってるから。」と言って電話を切りました。

この晩夜遅くに私は台北市内のホテルに到着し、翌朝早くに台北のトレジャー航空ビル内にあるオフィスのブリーフィングに出勤しました。

集まったCAは二人の男性アメリカ人を除いて全員が台湾人でした。成田ベース以上にほとんどが自国で採用された台湾人CAで占められているようでした。

自己紹介が始まると、台湾人は皆英語の名前を名乗りました。どうみても香港と違ってイギリス領であったわけでもない台湾で英語がそんなに主流とは思えないのですが、「I’m Sandy」とか「Hi, I’m Grace」と自己紹介するのを聞きながら、なんで揃いも揃って全員が英語の名前を言うのか不思議に思えて仕方がありませんでした。絶対に中国語名をもっているはずなのに。私は後でフライト中にどうしてなのか聞いてみようと思いました。

ブリーフィングが終わり、台北空港ビルへ向かうバスの中で、「セナ、空港においしいお弁当を売ってる所があるんだけど、あなたも一緒に買いに行く?」と声をかけられました。

「行く、行く!」と即答し、彼女たちの後に付いていくと、お弁当売りのおばさんたちが風呂敷を広げて売っている場所にたどり着きました。店舗でもブースでもなく、風呂敷を広げているだけです。

プラスチックのケースに何種類ものお惣菜と山菜御飯のようなご飯もの、スープなど、種類はとても豊富で、またとてもおいしい香りがします。最初、私は早朝の出勤なので、皆朝ごはんをぬいてきていて、ここで朝食をゲットしているのかと思いましたが、そうではないことがこの後一緒に飛んでみて分かりました。

機内食のサービスが一通り終わり、CAたちが食事をとる時間になると、みんな朝空港で買ってきたお弁当をオーブンで温めなおして食べ始めました。

「こっちのほうがおいしいし、健康的でしょ」というのが彼女たちの言い分でした。

確かに。

かくいう私もほとんど毎回といっていいほど、マイお弁当を持参して乗務していたので、彼女たちの言っていることはよく分かりました。

たまに食べる機内食は楽しいものかもしれませんが、週に何度ともなると飽きてくるのは否めません。私は飛び始めて一年もするとお弁当を作って持参するか、またはフライト直前にスーパーでお弁当を買って持ち込むようになっていました。

それにしても、この台湾のお弁当はすごくおいしかった。おもわず舌鼓を打ってしまうほどでした。「おいし~い」と感激しながら食べている私をよそに、彼女たちは北京語で賑やかに話をしながら持参のティーバックで何のお茶かはわかりませんが、自分たち用のお茶を入れて飲んでいました。なんだか食に対する迫力みたいなものが感じられました。

私は彼女たちと一緒に食事をとりながら、「あのね、ちょっと聞きたいことがあるのだけど」と、私はブリーフィングの時に感じた英語名のことを質問してみました。

「みんな中国語の名前をもっているんでしょう? それなのにどうしてそれを使わないの?」と聞くと、「中国語の発音はアメリカ人にはとても難しく正しく発音できないのよ。例えばリザーブの人が翌日のフライトをコンピューターに録音された情報から電話で聞き取ろうとするでしょ。でも誰を呼んでいるのかよく分からないし、違う誰かと混合してしまうなんてこともあるの。だからこの仕事をする便宜上英語で名前を言ったほうが人間違いが起こらないからいいし、会社もそのほうがやり易いのよ。」ということでした。「じゃあ、その英語の名前は誰が決めるの? 自分で好きな名前を選ぶとか?」この問いに対する答えは「Yes」でした。

会社に採用された時に、これからトレジャー航空では私はジャネット、私はエイミー、私はクリスティーンという名前で行くから、と自分の気に入った英語名を命名するのだというのです。

この事実に私は「ふ~ん。」と驚きとも感心ともつかぬ気がしました。そして、ちょっと日本人の私にはできないなあと思いました。もう少し聞いてみると、普段の日常生活においての家族、友人の間では当然生まれた時にもらった中国語の名前で呼び合っているということでした。

サンフランシスコへは午前中に到着。

私は明日に備えて体を休めることに徹したかったので、朝とはいえすぐに眠るつもりでしたが、台湾人クルーたちは朝粥を食べるのだと、さっそうと出かけていきました。サンフランシスコには大きな中華街があります。中華料理を探すのには困らない場所です。

翌朝、帰国便の中で昨日は何をして過ごしたかという話になり、「私はホテルの部屋でほとんど過ごしたわ。あなたは?」とある台湾人の子に聞くと、「皆でいつもの中華料理レストランに行って来た。おいしいのよ。あそこ」と言うので、今度またサンフランシスコに飛んだ時に行ってみようと思い、場所と名前を聞いておきました。


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