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セナのCA見聞録 Vol.57 ヨーロッパのびっくりバカンス その6

サン・ラファエルは、ニースから南西へ100キロほど行ったところにあります。

この小さな町にある古い教会で行われたステファンとイザベルの結婚式は、かつて経験したことのない暖かみのある素晴らしい式でした。

スイス人のステファンはプロテスタント、フランス人のイザベルはカソリックの信者ということで、牧師様・神父様も両方の教会から出席され、また言葉もドイツ語、フランス語の両方で執り行われました。

教会には半円の円形劇場のような石段の客席が教会正面扉の向かい側にあり、式の参列者は皆屋外のその石段に着席し、花嫁が登場するのを待ちました。

まるで野外劇場の座席から舞台を見ているかのような設定です。そこで私達は愛を誓い合う二人を見守りました。

青く晴れ渡った空にさんさんと陽光の降りそそぐの中、教会を取り囲む木々も小鳥も全てが暖かく静かにその場を見守っていて、自然と一体となった本当に素晴らしい結婚式でした。

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夜7時からゴルフ場のクラブハウスで行われた披露宴には、120名を越す招待客が集まり、とても盛大でした。

披露宴の始めに、まず今日夫となったばかりのステファンが出席者全員に感謝の意を伝えるスピーチを始めました。

当然のことながら、スピーチは夫婦の母国語であるドイツ語とフランス語で話されていたのですが、ある場所から突然英語に切り替わりました。

「あれ、英語だ。」と思う間もなく、急に私の名前が呼ばれ、ステファンが私に立つように言いました。驚きながら起立すると、

「今日は僕達二人のために、わざわざ遠く日本から来てくれた友人がいます。彼女の名前はセナ。彼女はとても美しく素敵な女性で、僕達の自慢の友人なのです。セナ、今日は本当に来てくれてどうもありがとう。僕達二人から心ばかりのお礼の品を用意したので君に渡したい。前に出てきて、ゲストの皆さんに顔を見せてあげて下さい。」と私を手招きしました、

私は驚きながら席を立ち、ステファンのところまで行くと、そこで小さなプレゼントを渡され、両頬にキスの挨拶をされました。会場からは拍手がおこり、私は照れくささに顔が赤くなりました。

ひな壇のメインテーブルにステファンとイザベルと一緒に座っていた私は、座席に戻ると、

「イザベ~ル、なにこれー。ひどーい。聞いてないよこんなの。びっくりさせてもー。」

とこのサプライズについて彼女につめよると、イザベルは、恥ずかしがっている私をおもしろがるようにケラケラと明るく笑っていました。

披露宴は、フルコースの食事の合間合間に友人によるの歌、劇、スピーチに加え、新婚夫婦によるワルツの披露が行われ、それに続いてゲストがダンスの輪に加わりました。

ウエディングケーキが登場したのはちょうど真夜中の0時でケーキカットの前に、平和を象徴する鳩を二人が飛ばすようなシーンもありました。

最後のコーヒーとチョコレートが運ばれたのは午前2時近かったと思います。私は2時半過ぎには退散させてもらいましたが、宿泊していたペンションで同室だったクリスティーンは朝5時半頃まで帰ってきませんでした。彼女によると5時までディスコダンスに合わせてはしゃいでいたそうです。

翌朝はイザベルのおばあ様の家を開放してブランチパーティーに招かれていました。

前日の披露宴に出席したほとんどのゲストが参加し、プールのある広いお庭で大勢の人との会話を楽しみました。

イザベルが「私のおばあさんを紹介するよ」私に声をかけてきました。

地中海を望む素晴らしい場所に構えた邸宅の持ち主であるおばあ様を紹介された時、私は「素晴らしいお宅ですね。」とそのきれいさを賞賛しました。すると、短い白髪をきれいにセットし、白いシャツを着て背すじのピンと張った凛としたこの女性は、

「ええ、どうもありがとう。私は毎年6月から4ヶ月ここで過ごすのよ。あとはパリの郊外にあるアパートで生活しているの。」と言いました。

「えっ!じゃあこれは別荘なんですか?」と尋ねると、

「そういうこと。普段は質素に慎ましく生活し、バカンスの時期は思う存分楽しむのが私流。」と見事に答えました。強い意志を内に秘めたこのマダムに私はなんだかハハーと頭の下がる思いがしました。

これもおフランス流、なのでしょうか。

結婚式は土曜日でしたが、その後結婚式で使い切れなかったシャンパンを朝食の時に飲む、という日は、私のニースを発つ木曜日の朝まで続きました。

私たち8人は(スイス人5人、ステファンとイザベル、そして私)毎朝8時半からゆっくり朝食をとり、その後人のいないビーチで泳いだり、セイリングボートを借りて沖へ出たり、または近くのサントロペまでボートで出かけて夕飯を食べに行ったりと、いかにも地中海沿岸らしい静かでスローペースな休暇を心ゆくまで楽しみました。

地中海沿いに走るドライブも快適でした。日中一緒に行動したのはたいてい6人から10人の仲間でした。毎日、どこかで誰かが「ここは僕が(私が)払うからいいよ。」と飲み物代や台所で使う食材費、ガソリン代など大きな金額にならないものはみんなの分をおごりあいました。そういう時に、厚意を断らずに、〝それじゃあ、どうもありがとう〟とスマートに素直に申し出た人の厚意を受け取り、翌日に誰からともなく、「今日は私が(僕が)この分は払うね。」と順番に似たり寄ったりの金額を別の形で支払う彼ら彼女のスタイルは、一緒にいてとても感じがいい。もちろん、私もその中の一人だったのはいうまでもありません。


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