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おばあちゃんのおひざもと 第43話 一升瓶の酒
「『一升瓶の酒を用意してくれるか』っておじいちゃんが言われて渡すと、『おい、義正。謝りに行くぞ。一緒に来い』って出てっちゃって。
幸ちゃんのお母さんが一人目を初めて出産した時、入院中の病院から連絡があって『洗面器を持って来てください。お家での赤ちゃんの洗い方を教えますから』って言われてねえ。お父さんはすぐにバイクの荷台に洗面器をくくりつけて病院へ向かったんだけど、その途中で細道から市道に出る時に、一時停止しなかったんだって。それを小学校前の交番のお巡りさんが見つけて、交番の手前で止められたんだって。「君、今さっきあそこでちゃんと停止しなかったよね。」って指摘されたらしいんだけど、その時に『急いでたんで。すみませんでした』ってちゃんと謝ればいいのに、『お巡りさん、ホントに見たの。ここからじゃ遠くてちゃんと見えないじゃないですか?』って口答えしたみたいなんだよね。それで違反チケット切られて罰金払うことになっちゃって。
家に帰ってきてその話を聞いたおじいちゃんが怒ってねえ。「全く、なんだお前。そんな事したのか。明日謝りに行くから一緒について来い」ってことになってね、お酒一升瓶を持って違反切符を切ったおまわりさんのところに行って二人で頭下げてきたんだとさ。そしたら「いやあ、免許証を見たら、黒岩って名前だったから、ああ曽呂の黒岩さんとこの息子さんか、ってすぐ分かったからさあ。最初はまあ大目に見てやるかって思ったんだけど、なんせ生意気にも反抗してくるじゃないですか。それでこっちもちょっと懲らしめてやるかって気になりましてねえ。全く威勢のいい息子さんですよ。ハハハ」ってことになったらしい。こんな田舎じゃあ、みんながみんなを知ってるから、どこで何があったかすぐ広まるからねえ。」
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かるた小説 ーおばあちゃんのおひざもとー
大正3年、1914年にアメリカに生を受け、22歳までに3度も船で太平洋を横断し日本とアメリカを行き来したおばあちゃん。ロサンゼルスの大都会…
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