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セナのCA見聞録 Vol.53 ヨーロッパのびっくりバカンス その2
偶然隣り合わせに座ったパイロット
ポーは、空港があるのが不思議なくらい小さな町でした。
ポーではフランス人の友人ソフィーのお母さんの家にお邪魔し、2泊させて頂くことになっていました。ボストンに住んでいるソフィーにフランスでの結婚式に招かれたことを話すと、場所がそれほど彼女の故郷から遠くないことから、「私のママを訪ねてあげてよ。一人で暮らしてるから喜ぶと思う」とお願いされたのでした。
ポー空港への私の到着時間は、予め日本を発つ前にソフィーに伝えてありましたが、飛行機は予定通りに飛ぶとは限りません。いや、むしろ予定通りに飛ぶことのほうが少ないといっていいくらいです。
この日私はジュネーブからリオン経由でポーまで行く予定でした。
しかし、リオン行きの飛行機が乱気流によって予定より到着時間がずいぶん遅れてしまいました。
日本で今回の旅の日程を組んだ時点で、リヨンでの乗り継ぎ便の接続時間がたった40分しかないことは分かっていた。タイトなスケジュールだが、利用する飛行機が18人乗りのとても小さな機種なので、搭乗にはそう時間はとられないだろうと踏んだのだが、それが甘かった。
この調子で飛んでいたら、到着するころに次の便が出てしまいそう。
「乗れなかったらどうしよう 😥」
1分毎に腕時計に目をやる私を乗せた小型飛行機は、そんな私のあせる気持ちをよそに接続便の出発15分前に着陸しました。
リヨン空港は、飛行機を降りてから到着ゲートまで地面を歩いて行くような小さな空港でした。
スーツケースも荷物コンベヤーまで運ぶ必要はなく、飛行機のお腹の貨物室のドアから直に地面に取り出され、それを自分で受け取るだけ。
私は自分のスーツケースが荷物係りによって飛行機から地上のアスファルトへ下ろされると同時にそれをひっつかむと、猛ダッシュでビル内のチェックインカウンターへ向かって走りました。
航空券とID(航空会社のクルーであることの身分証明)を出して
「この便乗せてもらえますか?」と息をきらせながら聞くと、無表情な中年女性職員は、
「5分前にあなたのフライトのチェックインは終了しました。」とつっけんどんに言います。
「え〜、そんなあ。どうしよう。」と途方にくれていると、彼女の後ろで様子を見ていたらしいベルトコンベアー脇にいた男性職員が
「いいじゃないか、乗せてあげろよ。」というようなことをチェックイン担当の女性に話すと、彼女はしぶしぶながらも「しょうがないわねえ、はい、じゃあ航空券もう一度見せて。」と手続きを始めてくれました。
「Merci, Merci, Merci beaucoup!」と何度も彼女とそう仕向けてくれた男性職員に感謝すると、その男性職員は私を飛行機まで運ぶための車を手配してくれていました。(優しい!)
もう搭乗時間も終わっていたので、すぐに飛行機へ向かわなくてはならなかったのです。私はまた外に出て、「こっちこっち」と手招きされた車に乗り込むと、驚いたことに、既にもう一人フランス人らしき男性がに乗っていました。車はタラップのすぐ脇で止まり、運転手は私のスーツケースを貨物室まで運んでくれ、私ともう一人のフランス人男性はタラップを上って機内へ入りました。
40代後半くらいの卵形の顔をした、中肉中背のこの男性と飛行機に乗り込むと、座席が隣同士でした。その時はただ飛行機に間に合ったこと、乗せてもらえたことだけが嬉しくて、特に何か会話をすることはありませんでした。
ドアが閉まり、飛行機が離陸すると、ホッとして力が一気に抜けた気がしました。
カラカラに乾いた喉を水で潤しながら、これからの旅程の確認。
「さて、ポーでの滞在を終えたら次はニース。え~っと、ポーからニースまでの距離はと。」
と、座席前のポケットにある機内誌を取り出し、フランス国土の地図をめくって距離を確認しました。すると、思っていた以上に離れていることがわかりました。半日程度の電車移動を計画していた私は少々不安になりました。
「ポーからトゥールーズまでで数時間、そこからマルセイユまでどれくらいだろう。ニースはまだその先だ。これはしくじったかも。飛行機は全て下調べして予定を組んだけど、電車は現地で手配しても大丈夫だろうと考えたのが甘かったかな。これはかなり時間がかかりそう。」
そこで、私はちょっと躊躇した後、隣に座っている先ほど車の中で一緒だった男性に、
「あの~、すみませんが、ポーからニースまで電車でどれくらいかかるかお分かりですか?」とフランス語で聞いてみました。
すると彼は、
「トラン?電車? ポーから? Non, Non。ニースなんて電車で行く距離ではないよ。直通はないし、電車だったらゆうに10時間、いやそれ以上かかるんじゃないか。」という返事がかえってきました。
「10時間?!😲」
「しまった。これは旅程を変更しなくては。」
と一人あれこれ選択肢を考え始めると、しばらく何かを思案している仕草をしていたこの男性は、
「マドモアゼル、いつまでニースに到着する必要があるんだい?」
と聞いてきました。
「8月31日の夜までです。」
と答えると、
「突然で驚くかもしれないが、僕はエアフランスの郵便貨物を運ぶパイロットなんだ👨✈️。ほら、これが会社のID、そしてこれが今月のフライトスケジュール。今日は夜の便でポーからニースへ飛んで、明日の晩リヨンへ行くフライトになってる。ふ~ん、ニースには31日に行きたいんだね。3日後か。それだったらこれを見てごらん。31日の晩の到着が遅くて構わなかったら、ニース行きの貨物便がある。僕はその日はニースには飛ばないけど、あさっての30日にまたポーに戻ってきて、31日の夜はポーからボルドー経由でパリへ飛ぶことになってる。パリまで行ったらそこからニースへ飛ぶ便に乗り換えたらいい。ニースへ飛ぶXX便のパイロットには僕から話を入れておくよ。そうすれば君はちゃんとニースへ行ける。どう思う?」と言いました。