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セナのCA見聞録 Vol.48 祖父と二人のハワイ旅行 その1


#おじいちゃんへ

5月の末、私は祖父と二人でハワイへ来ていました。

祖父と祖母の誕生月は必ず二人を訪ねることを常としている私は、4月の祖父の誕生日を祝うため、祖父母の家を訪ねました。その際に、トレーニングを受けに行ったハワイのことが話題にあがり、いろいろ海外を旅した祖父ですが、長年行きたいと思っていてまだ行っていない場所がハワイだと聞かされました。

私の祖母は81歳、祖父は87歳。足の弱い祖母は、自分に遠出はできないことを十分に承知していたので、「セナちゃん、是非おじいちゃんをハワイに連れていってあげてちょうだい。」と私に頼み、祖父は祖父で「是非一度行って見たいなあ。」と既にハワイの光景が目に浮かんでいるかのようでした。

それから一ヶ月足らず。この話は実現していました。

私は祖父母の家から戻った後すぐに5月の一番長い6日間のオフを利用して、三泊四日の計画を立てました。航空券はクルー用の優待券を利用することにしました。空席がある時のみに使えるのが前提ですが、運が良ければファーストクラスへ乗ってもらうこともできるからです。ホテルは以前ハワイに住んでいたことのある友人に場所、値段の手ごろな所を教えてもらいました。コンドミニアム式のホテルに決めると早速予約を入れ、メールで確認をとりました。こうして準備はあっという間に整いました。

出発当日。

成田駅で祖父を迎え、浮き立った気持ちで空港へ向かったものの、チェックインカウンターでこの便は満席だということで、搭乗はできませんとのこと。そのまま私の成田のアパートへ戻るはめになってしまいました。

「ごめんなさいね、おじいちゃん。がっかりさせちゃったね。とても楽しみにしてたのに。明日は必ず乗れるからって言ってあげたいところなんだけど、それも明日になってみないとわからない、というのが、この優待券を利用する辛いところなの。本当に申し訳ない。」私がひたすら謝ると、

「いいよ、いいよ。そんなに悪く思わなくても。行けなかったら行けなかっただ。人生は常に刹那で動いているようなものだからね。その瞬間、瞬間に目の前にあるものを選択する、毎日がその連続なんだよ。」と私を諭し、気落ちしたそぶりを微塵も見せませんでした。

アパートへ戻ると、私は「テレビでも見ててちょうだい。すぐ戻るから。」と祖父をリビングルームのソファーに腰を下ろすよう促しました。そしてテレビをつけてリモコンを祖父に渡すと、急いでスーパーへ夕食を買いに出かけました。スーパーから戻ると、今買ってきたばかりのお惣菜とお寿司、それにお茶で、遅く簡単な夕食をとりました。

そして祖母に電話を入れ、今晩は出発できなかった旨を伝えました。その後お風呂に入ってもらっている間にお布団を敷いて早めに休んでもらえるよう準備をしました。

私は人をお招きするのがとても好きで、一年の半分以上は家を空けているにもかかわらず、年に20人くらいの友人知人が泊まりにきます。なので人を泊めることには慣れているのですが、祖父を泊めるのは生まれて初めてで、なんだか不思議な気がしました。〝来客は歓迎してもてなすもの〟というのが私のモットーですが、祖父はその中でもとびきりのVIPなのは間違いありませんでした。

ハワイ行きの便は夜8時半過ぎの出発なので、翌日はまる一日自由な時間がありました。

祖父に「夕方まで何をして過ごそうか?」と聞くと、「八日市場へ行ってみたいなあ」というので、そこまでドライブをすることにしました。

幸いその日は五月晴れのとても気持ちのよい天気で、ドライブ日和 🚙

歴史、地理の専門家である祖父は小さな町の名前一つ一つを本当によく知っていて、私にああ書いてこう読むなどと地名の読み方を教えたり、またその由来まで教えてくれたりしました。そして、「ああ、セナちゃんのおかげで、かねてから見たいと思っていた土地をこうして見てまわることができた。有難いねえ。」と、私に車の中で何度もお礼を言いました。

本当なら今ごろはもうハワイに到着して観光の一つ二つでもしているはずなのに、こういうことを本心から真面目に言う祖父から私はいつも多くのことを学びます。

帰り道に、飛行機の離着陸する様子がまじかに見える、さくらの山公園に立ち寄り、葉桜の眩しい中、少し休憩をしました。そこでも祖父はベンチに腰かけながら、昔の友人との体験談などを全くもってウィットに富んだ語りで私を楽しませてくれたのですが、私の心の中は、「どうか神様、今晩は飛行機に乗れますように。」と飛び立っていく飛行機を見上げて祈るばかりでした。

夕方、昨日と同じバスでまた空港へ向かいました。

チェックインカウンターではまた満席だと言われ、私はまたがっかり。フライトの予約していながら、なんらかの理由でチェックインに現れない人のことを英語で、”No show”(ノーショー)と言いますが、このノーショーを見込んで出発20分前までスタンバイ客(空席待ちをしている人)は脇で待たされます。

ハワイからは成田ベースに飛行機通勤しているクルーが多いので、特にスタンバイの多い便です。一日に一便しかないこともあり、10名以上のスタンバイが待つというのはざらで、日によっては20人近いこともあります。ノーショーが4人出て、運のいい4人が乗れ、運の悪い6人は「残念でした。」と断られるというのは全然珍しいことではありません。

「おじいちゃん、ここに座って待っててね。」と出発ロビーの空いている席に祖父を座って待たせ、「今日は乗れるかなあ。」と私はやきもきしながら昨日と同様、出発20分前になるのを待ちました。

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