セナのCA見聞録 Vol.6 最終試験と卒業式
さて、TKと同じくらい緊張するのが、訓練最終日にある最終試験です。
モックと呼ばれる機内の客室の一部をそのまま再現した特殊な場所を使用することと、試験担当官の人数の関係上、一日に最大15人までしか受験できないということがあり、最終試験は二日間に渡って行われました。この試験は五種類の異なったシナリオの書かれた大きなプラスチックカードの中から一枚を選び、自分のひいたカードに書かれている状況設定に基づいて、乗客役をしている教官に対して適切な対応をとるというもの。
実際の機内と全く同じ客室となっているモックの中に入り、合否を判断する教官の前で問題対処を英語で適切に行うのは本当に大きな緊張と不安が伴います。
一人20分という限られた時間枠で、一人一人、個人の試験時間が割り当てられています。指定されたテストの時間が近づくと、寮の自分の部屋から試験場へ出向くのですが、この日は食事もろくにのどを通らない程の緊張のピークといえます。
今まで約二ヶ月余りこんなにがんばってやってきたのですから、ここで落ちるわけにはいきません。
同期のみんなが寮の廊下に出で、試験に向かう一人一人に「がんばってきてね。絶対大丈夫だから。」と応援し、励まして見送り、戻ってくると「どうだった?」とハラハラ心配しながら結果を聞きました。全員が受からなければ喜べない心境で、心から全員の合格を願いました。
努力の甲斐があって、私達のチームは全員合格しました。
数週間後、待ちに待った卒業式が東京都内のホテルで行われました。
ハイライトは、教官からウイングという飛行機の翼の形をしたバッチをもらい、制服の胸の位置にそれをつける儀式のようなシーン。ウイングを制服につけることで、晴れて正式なCAとなるのです。
制服にウイングをとりつける栄誉ある人は、自分で希望を出すことができました。訓練生の大半はお世話になった教官を指名しましたが、人によっては、彼氏や、だんな様、親友などにつけてもらう人もいて、式はとても和やかな雰囲気の中で行われました。
私たちは、会社のテーマソングと共に制服姿で入場しました。私は両親、祖父母、姉、いとこが晴れ舞台を会場で見守ってくれました。おばあちゃんは家の外へ出ることがほとんどなかったのですが、よっぽど見たかったのか会場に来ていて、びっくりしました。社員番号の一番若い順子の名前が呼ばれると、同期のくったくのない、おめでとうの言葉と拍手、「イェーイ!」「ヒューヒューウ!」などの陽気な喝采が式場全体に響きました。
訓練の修了書と、ウイングを授与されると、シカゴからわざわざ来てくれたダニエルとナタリーが一人一人におめでとうとハグをしてくれました。まるで硬さのない、朗らかで楽しい卒業式でした。
私の順番は七番目。私は自分の番がくるまで内心とても緊張していました。というのも前の晩から修了書をもらったら壇上で絶対に言おうと短いスピーチを用意してたからです。修了書とウイングをもらってステージで正面を向いたら、その時に言おうと考えていたことがあったのでした。ところが、実際自分の番がくると、ダニエルに修了書を、そしてナタリーにウイングを付けてもらうと、そのまますっと壇上を降りてしまいました。壇上でスピーチをする度胸がなかったのです。
そこで大変遅ればせながら、今ごろになってそのときに言いたかったことを伝えさせて頂きたいと思います。
「ダニエル、ナタリー、そして同期のみんな、訓練中私の体調が悪かったときにはいろいろと助けてくれて本当にどうもありがとう。今日こうして晴れて卒業できたのも皆の優しい支えがあったからこそだと心から感謝しています。みんなと訓練センターで出会えて、そしてこのチームの一員となれて本当によかったと思っています。パープルチームは最高」
それにしても寝食を共にする仲間というのは特別になるもの。無事卒業し、おのおのがまちまちのスケジュールで仕事を始めても、たまに一緒に飛ぶことがあると、それだけで嬉しくまた気が休まってほっとできる存在なのですから。過去に共同生活をしたことのない私は、つくづく有難く思いました。同期というのは新たに姉妹が増えるようなものです。