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全訳「彗星と占星術」(ロッド・チャン)
彗星は占星術にとってどのような意味を持つのか――。本稿は占星術家のロッド・チャン(Rod Chang)氏が英国占星術師協会(The Astrological Association of Great Britain)の機関紙「The Astrological Journal 2014年11月〜12月号」に寄稿した論考『Comets in Astrology』の全日本語訳です。2024年秋に紫金山・アトラス彗星(C/2023 A3 Tsuchinshan-ATLAS)が肉眼で見えるようになり、「Skyscript」に掲載された同記事(以下リンク先)をアマンジョーシが翻訳しました。
(※ロッド・チャン氏から翻訳・掲載の許諾を得ています。2024年12月に抄訳版を掲載しましたが、2025年2月に全訳へと改稿しました)
はじめに
占星術を20年余りにわたって研究してきた私の心に2013年、ひとつの疑問が巣食いはじめていた。
「彗星は占星術において、どのような意味を持つのか」
私が占星術のコラムを書いた時、彗星についてジャーナリストから質問を受けたが、先達の師や出版物からはその答えを見つけることができないでいた。2013年の初頭、2つの彗星が観測できるチャンスがめぐってきて、そのうちの1つがとても明るくなるだろうと報じられた時、再び「占星術師たちは彗星をどのように捉えているのか」という疑問が心中に浮上してきたのだ。
天文学的な「彗星」について
「彗星(comet)」はラテン語「cometes」に由来する。さらに遡るとギリシャ語の「κόμη(komē)」が語源で、もともとは「頭髪」を意味する。彗星は主に氷、塵、一酸化炭素、メタン、アンモニアなどの凍結ガスで構成される天体で、通常は太陽系の最も寒く暗い外縁部で生じる。
彗星の軌道は多様で、ハレー彗星のように約75~76年周期で定期的に出現するものから、数十万年に一度しか太陽系を訪れない長周期のものまで存在する。太陽に接近すると、重力の影響により軌道が変化し、地球からも観測可能となる。
太陽に近づくと、太陽からの熱により凍結ガスや氷が昇華し、放射線や太陽風と相互作用することで、彗星に特徴的な明るく輝く尾が形成される。壮大な彗星だが、その多くは近日点を通過する時に分解、蒸発、あるいは完全に消滅してしまうことがある。
古代の占星術師による見解
初期の占星術研究によれば、彗星は複数の惑星が会合する際に出現すると考えられていた。古代の占星術師の記録は、彗星が単なる暑く乾燥した気候だけでなく、さまざまな自然現象や社会的変動と関連づけられていたことを示している。
具体的な歴史的記録によると、紀元前340~341年と紀元後60年に彗星が通過した際にはハリケーンが発生し、紀元前373~372年に彗星が空を滑るように移動した際には地震と津波が起こったとされる。当時の著名な哲学者アリストテレスは、彗星を気候変化の重要な指標と見なしていた。
占星術師たちの伝統的な解釈によれば、1年に複数の彗星が出現する場合、その年は通常、乾燥して嵐の多い年になると予測された。ローマ帝国以降、彗星の意味合いは拡大し、自然災害を超えて、人為的な災害の前兆としても解釈されるようになった。特に、死、暴動、戦争、虐殺の象徴とされ、王や貴族の死が最も注目を集めた。
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(Zentralbibliothek Zürich, Public Domain Mark / ESA)
象徴的な例として、紀元前44年にローマでジュリアス・シーザーが暗殺された際、その後継者であるアウグストゥスは、シーザーの魂はすでに彗星に乗って天に昇ったと宣言した。この発表は如実に、当時の彗星に対する神秘的かつ予言性にあふれた見方を示している。
古代から中世にかけては、彗星が自然災害、社会的混乱、大規模な虐殺をもたらす不吉な前兆として恐れられた。歴史上、彗星の出現は数々の劇的な出来事と結びつけられてきた。
西暦684年にハレー彗星が通過した際には、3か月に及ぶ未曽有の暴風雨が発生し、さらに黒死病が蔓延した。
1066年、ハレー彗星が再び出現した年には、イングランド王ハロルド2世がノルマンディー公ウィリアム1世と戦い、ヘイスティングスの戦いで戦死した。その結果、ウィリアムがイングランド王位を継承することとなった。この出来事は、彗星が王権の交代や支配者の死を予示するという伝統的な信仰を象徴する顕著な例である。
1910年になっても、彗星の接近は人々に恐怖を与え続けた。当時、彗星が有毒ガスを放出するという噂が広まり、多くの人々が窒息を回避する方法を模索した。実際には、彗星の尾に一酸化炭素や二酸化炭素が含まれる可能性はあったものの、直接の犠牲者は報告されていない。
彗星は人々の集合的心理の中で、根強いタブー(禁忌)と結びつき、彗星が出現すると破滅的で極端な出来事の前兆であると解釈されてきた。
だが、占星術師たちは彗星に関する予言を行う際に、実際にどんなことを考慮していたのであろうか。
占星術師は彗星の影響をどう予測したか
古代の占星術における天文観測の伝統に従い、当時の熟練占星術師らは、天空に出現する彗星の微妙な色彩変化と形態を、驚くべき精緻さと神秘的な洞察力をもって解釈していた。
彗星の色調は、まるで天体が織りなす複雑な物語のように、占星術師たちにとって重要な予言の鍵となった。土星を想起させる灰色の彗星は、政治的混乱、資源の枯渇、社会構造の脆弱性といった、重大な社会的転換の前兆と見なされた。
ウィリアム・ナイトによって1680年に記録された稀有な彗星の色彩変容は、天文学と占星術の境界領域における驚くべき観察記録だった。最初は土星的な灰色を呈し、政治的不安定さと資源の制約を暗示していた彗星は、数か月の経過とともに、突如として明るい色調に変貌を遂げていった。この変化は、木星の影響力を象徴し、宗教的覚醒や法的秩序の再編成を予示するようにみなされた。
最終的に深紅に染まった彗星は、ナイトの解釈によれば、社会の暗部、すなわち窃盗や略奪といった犯罪の蔓延を告げる、暗示的な天体現象として理解された。
このような占星術的解釈は、当時の人々の世界観を反映し、壮大な宇宙の物語を紡ぎ出した詩的かつ神秘的な知的営みであったといえるだろう。天体の色彩は単なる物理的現象ではなく、人間社会の運命を暗示する、生きた象徴として捉えられていたのだ。
ティコ・ブラーエは彗星観測に独自の占星術的方法を適用した天文学者の一人だった。彼は彗星が通過するサイン(星座)と、そのサインが持つエレメント(要素)の意味を注意深く解釈した。例えば、魚座♓️を通過する彗星は、海洋や漁業に関連する問題を示唆すると考えた。
各サインのエレメントには特定の事象と関連づけて考えられていた。
火象サイン(牡羊座♈️/獅子座♌️/射手座♐️):火災、戦争、大規模殺戮など
地象サイン(牡牛座♉️/乙女座♍️/山羊座♑️):干ばつや食糧不足など
風象サイン(双子座♊️/天秤座♎️/水瓶座♒️):ハリケーンのような破壊的な嵐など
水象サイン(蟹座♋️/蠍座♏️/魚座♓️):豪雨や津波など
このように、彗星の通過するサインは当時の人々にとって、将来起こりうる出来事や災害を予測する重要な手がかりとされていたのである。
占星術師たちはまた、すべての国にはそれぞれに象徴的なサイン(星座)があると信じてきた。 彗星が特定のサインにあると、そのサインが表す国は災害に見舞われると予想される、と。
例えば、1678年に彗星が牡牛座♉️にあったとき、英国人の占星術家ウィリアム・リリー(William Lilly, 1602 - 1681)は「ポーランド、ロシア、シチリア、ノルウェー、アルジェリア、ロレーヌ、ローマに影響を与えるだろう」と『Mr. Lilly's new prophecy』(1678年)で指摘した。
彗星が惑星や恒星と会合すると、その惑星・恒星のテーマにも影響を及ぼす。たとえば、水星を通過する彗星は、交通や橋に関連する問題を引き起こす可能性がある。
伝統的な占星術師も彗星を目撃したときにチャートを作成し、彗星が位置するハウスに応じてその影響を判断した。一例が前述のティコ・ブラーエで、彼はこの方法でチャートを作成し、彗星が第8ハウスにあるため、数千人の命を奪う災害になるだろうと予言した。
別の視点から見た彗星
これらは古代の占星術師の見解だ。確かに、彗星が出現すると人為的災害と自然災害の両方が頻繁に発生する。 以下に、彗星が空に現れる時期のデータに基づいて、いくつかの視点と側面から彗星に関する私の新しい考えを共有したい。 心理占星術の観点から始めたい。
犠牲と哀傷
ギリシャ神話では、彗星に関連する物語はわずかに2つのみ存在する。そのひとつが「メニッペとメティオケの物語」、すなわちオリオンの娘たちの逸話だ。狩人であった父の死後、メニッペとメティオケの姉妹ふたりは母の手で育てられ、女神たちの恩寵――アテナからは織物を、アフロディテからは美を授けられた。
ある年、疫病が蔓延し、アポロンの神託によって二人の乙女の生贄が必要とされました。姉妹は自ら進んで身を捧げ、織物用の杼(訳註:機織り機に横糸を通す道具)で自らの命を絶った(オウィディウス『変身物語』687節以降)。冥界の王と女王たるハデスとペルセポネは彼女たちを憐れみ、彗星と流星へと変えた。――「流星(meteor)」という語の語源は、これに由来する。
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この名称の関連性だけでなく、メニッペとメティオケの神話には死のテーマが響き渡り、織物の杼の形状と彗星の外観に類似性も見出せる。ここで強調すべきは「犠牲」という要素であり、これは彗星の出現時に大規模に発生することを我々はしばしば目撃する。
ダイアナ妃の生涯に犠牲の意味が刻まれていたことは、多くの方々が同意するだろう。ダイアナ妃の誕生月には「ウィルソン・ハバード彗星」が観測され、離婚と死去の年にも地球の傍らを彗星が通過した。別の例では2013年の彗星通過後、アリエル・カストロが3人の少女の10年以上にわたって誘拐・監禁していた事件が明るみに出た。これは後述する「解放」の原理に関連する。
彗星に関するもうひとつの神話は、プレアデス星団の星の1つ「エレクトラ」についての物語だ。エレクトラはゼウスとの間にダルダノスという息子をもうけた。ダルダノスがトロイにて帝国を築き上げていた際、エレクトラはトロイを守護するためアテナの木像を安置した。トロイ戦争において、オデュッセウスは女神の導きに従いこの像を盗み出し、これが巨大な木馬による征服の一助となった。
エレクトラはトロイ陥落の報を聞くや、その髪をかきむしり、それが彗星となった(偽ヒュギヌス『アストロノミカ』2.21)。ここから「悲嘆」「怒り」「脆弱性」、そして「古きものの消滅」という原理を彗星に見て取ることができるだろう(興味深いことにトロイはこれら二つの神話に共通して登場している。これについては後述する)。
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偽ヒュギヌス『アストロノミカ』(2.21.5-6)には、7つのプレアデス星のうち肉眼で見えるのが6つのみである理由について、以下のような記述がある。
「プレアデス星団は7つと呼ばれているが、実際に見えるのは6つのみである」「エレクトラの姿が見えないのは、プレアデス星団が星々の輪舞を導くと考えられているためだ。しかし、トロイが陥落し、ダルダノスを通じた子孫たちが打ち倒された後、悲しみに暮れたエレクトラは仲間たちのもとを去り、北極圏と呼ばれる円環に身を置いた。この出来事により、彼女は長きにわたる悲しみの中で、髪を解き放った姿で現れ、そのために彗星と呼ばれるようになったのである」
集団的な恐怖からの解放
さて、もっと想像力豊かに彗星を分析する方法を見てみよう。まず、カイロン(キロン)のように、彗星は海王星と冥王星の向こうの太陽系の遠い境界からやってくる。多くの心理占星術師はこのカイロンを、心理学の集合的無意識と比較する。 メラニー・ラインハートはこの理論をカイロンの影響に当てはめた。
彗星が集合的無意識から来る恐怖と戦慄を暗示することは、筆者も同意する。これらの感情は予測できない出来事によって引き起こされ、私たちの注意を喚起する。 彗星は、私たちの意識の深淵から恐怖や戦慄といった抑圧された感情を解き放ち、注目を集める凍結された問題の象徴であると私(筆者)は言いたい。
私は、彗星を、潜在する問題が炎となって世界の注目を浴び、意識の深淵より恐怖と戦慄という抑圧された感情を解き放つ象徴的な天体として提示したい。
災害の脅威は既に論じたが、著名な人物の死や退位もまた、人間の死すべき運命に対する畏怖の感情を呼び起こすものである。彗星と死、あるいは権威の喪失との関連性を否定するものではない。
歴史を紐解けば、その神秘的な符合は興味深い:
百武彗星(訳註:百武彗星は「C/1995 Y1」「C/1996 B2」とも長周期彗星のため筆者のロッド・チャン氏が誤認している可能性がある)が天空を横切った時に、ユリウス・カエサルやアレクサンダー大王が没し、1910年にはエドワード7世が、そして1996年にはフランソワ・ミッテラン仏大統領が逝去したほか、チャールズ皇太子とダイアナ妃が離婚した
ヘール・ボップ彗星が天空に現れたのは、ダイアナ妃が悲劇的な自動車事故で生涯を閉じた翌年であった
パンスターズ彗星の出現した2013年も、ベネズエラのウゴ・チャベス大統領の死や、オランダのベアトリックス女王とローマ法王(訳註:ベネディクト16世)の退位があった
奴隷・犯罪からの解放と新たな思考
彗星は温まるにつれてガスを放出するが、これは何を意味するのだろうか? アイデアや感情の放出だろうか? ガスとは何か? 思考、アイデア、見解だ。彗星が放出するものは決して(1910 年に人々が恐れたような)有毒ガスではない。放出されるのは、新しく革新的なアイデアだ。
「解放する」は「自由になる」という意味も持つことにも留意したい。
例えば、(訳註:ハレー彗星が現れた)1910年には中国で奴隷制度が違法となった。1965年に池谷・関彗星が通過した際には、英国貴族院は男性同性愛行為の非犯罪化を提案した。(訳註:パンスターズ彗星が見られた)2013年5月には、10年間誘拐されていた3人の少女が解放された。この年はさらに、米国で「結婚」の定義が変更され、異性のパートナーのみを対象としていた制限から解放された。またブラジル、フランス、ニュージーランド、英国、ルクセンブルク、ウルグアイで同性婚を認める法律が制定された。
筆者は、彗星の通過にともなって多くの新しいアイデアが生まれるのを観察してきた。リンゴが落ちたことがニュートンに重力の存在を発見するきっかけとなったのか? たしかに、それは理由の 1 つはなったかもしれない。だがニュートンは彗星に強い関心を持ち、古代の占星術師による彗星の研究を記録した膨大な書籍を所有していた。 彗星の研究は、ニュートンの重力と太陽系のモデルに影響を与えたはずだ。
彼はすでに1681年時点で、惑星の軌道と惑星間の重力を示すほぼ完成した太陽系のモデルを提案していたが、これらの理論を彗星に適用することはできなかった。彼は彗星の研究に熱中した。彗星の軌道が他の力によって深刻に影響を受けるという事実などといった特定の理論は観察ですでに獲得していたが、彗星に関する計算を完了できていなかった。
1680年、彼が彗星の軌道を観測しながら計算したとき、突然ある考えが頭に浮かんだ――太陽の質量による引力こそが重要な役割を果たすはずだ、と。 ニュートンは彗星の研究を完成させられなかったが、彗星を通して引力の存在と惑星と太陽の間の相互作用を発見した。 彼の研究はまた、エドモンド・ハレー(自身の名を冠した彗星の軌道を予測した)が彗星に関する基礎を築くのにも役立った。 何が世界を変えたのか? それはリンゴではなく、彗星だったはずだ!
新しい考えや世界の変化といえば、他にも考慮すべきことがある。 1882年9月の大彗星(訳註:「Great Comet of 1882」と呼ばれたクロイツ群の彗星)が通り過ぎたとき、トーマス・エジソンはニューヨークで最初の発電機を稼働させ、人々の生活様式を根本的に変革した。このとき彗星は、日常生活と産業にかかわる乙女座♍️にあった。
1976年にウェスト彗星が通り過ぎたとき、 スティーブ・ジョブズとスティーブ・ウォズニアックは最初のパソコンキット「Apple I」を発売した。1986年にハレー彗星が通り過ぎた時には、最初のコンピューターウイルスが出現したほか、英国とフランスは当時最大の海底トンネル建設プロジェクトを発した。「英仏海峡トンネル」の誕生だ。彗星はイノベーション(技術革新)を暗示する上で極めて重要な役割を担っているのだ。
混沌からの誕生(生命の発見)
ニュートンをはじめとした科学者たちは、「新しいアイデアや物事の誕生」という私(=チャン氏)の提案に似たような、別の仮説を提起していた。それは「物事」というより、実際には「生命の誕生」と呼ぶべきだ。
我々のいる太陽系がまだ若かった頃、彗星は至る所に存在していた。彗星は幼かった惑星と衝突し、その成長と進化に重大な影響を与えた。地球上の生命を育んだ水は、幼かった地球に衝突した彗星の遺産なのかもしれない。生命の前駆体となっていった複雑な分子もまた、この彗星が衝突した時期に堆積した可能性がある。
言い換えれば、彗星は新たな生命や新たな課題の存在を示唆する可能性を秘めている。それは神話によっても暗示されてきた。「エレクトラとトロイ戦争」の神話において、アフロディーテの息子アエネイスは、隕石の落下を目撃した際、戦争を避けるために故郷を後にした。
アエネイスはローマに向かい、ギリシャからローマへと世界の文化的焦点をシフトさせた“ローマ文化の創始者”とされている。彼は混沌としたトロイ戦争から新たな道と文化を見出したのだ。同様にウィリアム征服王は1066年にイングランドの歴史の流れを変え、ノルマン文化や他のヨーロッパ的システムを導入した。
出生図における彗星
彗星が天空にある時に生まれた人は、「イノベーティブ(革新的)な考え方をする人」である可能性があり、「衝撃」や「混乱」とも関連がありうるだろう。 これらの人々は解放のための行動を実行したり、大集団に深刻な影響力を与えうる。彼らの態度や特徴は予測できないかもしれない。
例えば、スエズ危機(訳註:第2次中東戦争、1956年10月29日〜11月7日)はアラン・ローラン彗星が空に現れた頃(1957年)に起こったが、これはオサマ・ビン・ラディンが生まれた年でもあった。彼は大きな衝撃と混乱を引き起こし、一部のグループに影響を与えたことは否定できない。彼が亡くなった2011年にも彗星(訳註:ラヴジョイ彗星か)が通過した。
艾未未(訳註:1957年5月18日生まれ=中国の現代美術家/キュレーター/建築家/文化・社会評論家)も衝撃を与えた人物の一人だ。彼はオサマ・ビン・ラディンの2か月後に生まれた。艾未未の多彩な活動と、中国政府に対する反乱は、世間の注目を集めた。
1882年は5月と9月に2つの彗星が空に現れた。同年にはスウェーデン国王グスタフ6世アドルフ、ドイツ首相クルト・フォン・シュライヒャー、ブラジル大統領ゲトゥリオ・ヴァルガス、キューバ大統領ラモン・グラウ、イラン首相モハメド・モサデク、米大統領フランクリン・デラノ・ルーズベルト、アイルランド大統領ショーン・T・オケリーなど、多くの指導者が誕生した。
ヒトラーが生まれた1889年にはバーナード第二彗星が訪れた。1927年12 月に彗星(訳註:シェレルプ・マリスタニー彗星)が天を滑空すると、国民から多大な尊敬を集めたタイ国王プミポン・アドゥンヤデート(ラーマ9世)が生誕した。
出生図以外にも、通過中の彗星の位置と出生図との関係がわかれば、情報を得られるに違いない。通過中の彗星が黄道帯の領域を通過し、出生図のその領域に惑星がある場合、人生のその側面で衝撃的で突然の出来事や、新しい態度や考えが現れるかもしれない。
彗星とスティーブ・ジョブズの関係については、すでに述べた。1976年に目撃されたウェスト彗星は山羊座♑️から魚座♓️14度までを移動したが、これは彼の出生時の金星、カイロン、水星、太陽の上を通過していた。ちょうどジョブズと(共同創業者の)スティーブ・ウォズニアックが最初のアップルコンピュータを作成した時期である。
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1986年1月と2月には、ハレー彗星が水瓶座♒️14度(ジョブズの出生時の水星の位置)を通過した。これはジョブズの人生における重大な瞬間であった。彗星によって彼にはショックと災難が降りかかり、自ら設立した会社を去らざるを得なかった。
しかし、それは彼に新たな道を歩み始める機会を与えた。 彼は「NeXT Computer」と、有名な「ピクサーアニメーションスタジオ」を設立した。NeXT Computerは後年、ジョブズがアップルに復帰する鍵となった。彗星の影響を受けた彼の出生の水星はジョブズの出生図でMCの支配星である。
もう一つの例は 、パンスターズ彗星が空にあった時(訳註:2013年)に選出されたフランシスコ教皇である。彼の出生図では、月は水瓶座♒️10度、金星(MCの支配星)は水瓶座♒️7度にあり、どちらも彗星の影響を受けている。就任後、彼はゲイコミュニティに友好的なメッセージをいくつか発表し、彼の言葉はカトリックのゲイたちに安堵をもたらした。
筆者自身、彗星にまつわる興味深い体験があった。パンスターズ彗星は、私の誕生日の前日である2月12日に観測された。それは、私の出生時の金星がある水瓶座♒️の初期度数だった。私は恋愛生活で大きなショックを受け、その後すぐに予想外の新しい関係が始まった。3月に、彗星が私の出生時の水星がある魚座♓️を通過したとき、私は彗星に惹かれ始め、彗星を観察する機会や、占星術における彗星の影響について研究する機会を探してきた。
残念ながら、そのような機会はほとんどなかったが、その月にBBC(英国放送協会)で放送されたテレビ番組では、彗星のさまざまな解釈が語ることになった。彗星は常に私たちに新しいアイデアをもたらしてくれる。
中国的な視点から
西洋の観点について述べた後は、彗星に関する中国の考え方をお伝えしよう。中国では彗星を「箒星」と呼び、通常は不吉なものと考えている。しかし、箒は掃除をして不要なものを払い除けるためのものであり、それは新しい場所を作るために必要な行為であることは忘れてはならない。これは避けられないことかもしれないが――破壊的な力を通じて、新しい機会がもたらされるのだ。
中国では彗星を「慧星」と呼んだ。「慧」は「智慧」を意味する。興味深いことに、中国では「智慧の剣を振るって執着を断ち切る(訳註:四字熟語では「慧剣斬情」か)」という言い方をする。智慧は剣のようなものであり、彗星は明らかに宝剣の象徴といえる。
私たちが人生で観察する様々な象徴的なイメージから考えると、彗星は新しい智慧の誕生を示唆しているのかもしれない。彗星は、私たちがどこで知恵を活かすべきかを示しているのだろうか? また、新しいものを人生に迎え入れるために、特定の束縛や執着を断ち切るチャンスなのだろうか?
おわりに
神話において、彗星はトロイの滅亡に対するエレクトラの悲しみを表すと同時に、アエネイエスがローマへ向かったように、大きな変化も示唆している。1986年の彗星がスティーブ・ジョブズの出生図で水星の位置を通過した時に、彼はアップルを去り、ピクサーとNeXT Computerを設立した。もしこのような情報を手に入れられれば、あなたもアエネイスの足跡をたどり、自分のトロイを離れて、新しいローマを築くことができるかもしれないのだ。
(了)
【関連情報・リンク】
◆Rod Chang氏のブログ
◆彗星に関する基礎知識
▼国立天文台
▼アストロアーツ