『かがり火の結末A』
炎に触れるとどうなるか知らないものはいないだろう。
手を引かねば肉は焼ける。
――その熱に、本能が危険だと告げる。
己に燃え移る前に炎を諦めてしまえば、その身を焼かれることもなかったのに。
カヤに手を引かれながら、足場の悪い森を駆け抜ける。太陽が追ってきている。早く、速くとお互いに会話もなく足を前に動かし続けていた。
タツノヒコが村に帰るために頼りにするかがり火は消えただろうか。あの風だ。おれ達が逃げ去ってからすぐに消えたに違いない。
走る。走る。走る。
カヤのしなやかな四肢に目を奪われながら走り続けた。
つかまれている腕は、燃えるように熱い。いや、すでにおれの腕は燃えているのではないだろうか。
腕の熱は進むたびに身体中に伝わっていた。どくどくと、心の臓から激しく送り出される血は沸騰している。
カヤが、おれを燃やしているんだ。
太陽が迫ってきている。
おれ達の罪を暴くように、全てを白日に晒すように。
走って。走って。走って。
罪から逃げるように、ひたすら幸福を追うように。
走り続けて、喉が裂けそうになった頃、ようやく山を抜けた。関所の明かりを捉えて、耐えきれずに涙が溢れる。
カヤにもその火が見えたのだろう。足を止めてようやくおれの方を振り向いた。
隣の村まで必死で走ってきたせいで、カヤの顔も上気していた。今までの疾駆が嘘のように、二人してゆっくりと関所の方へと向かう。
太陽は、追いついた。
越えてきた山々が朝焼けに赤い。
横を見れば、カヤも泣いていた。茹で上がったまろい頬を涙が伝う。
それの輝く跡を眺めた時、自分の中の炎がかつてないくらいに燃え盛ったのを感じた。
カヤからの移り火は、確かにおれに意思を持たせて、おれ自身の火となった。
いつの間にか離されていた彼女の手を取る。村のかがり火の前では口にできなかった言葉を、今、おれ自身の言葉でカヤに伝える。
「ともに生きよう」
(了)
先に謝っておきます。すみませんでした。
人様のお話の続きを書くって難しいですね……。
今回の小説では学んだところがたくさんありました。
この小説は、闇夜のカラスさんの『かがり火は消えるか?』の企画に、勝手ながら参加させていただいて書いたものです。
闇夜のカラスさんのお話と企画の記事はこちら。
すごく雄大で素敵なお話なので、世界観を壊さずに書けているといいのですが……。
もしお読みでない方がいらっしゃれば、闇夜のカラスさんの記事をぜひ読んでみてください!
最初はDを考えていたんですけど、なんとしても二人を幸せにしたくなったのです。わたしが考えていたDは、Cの派生で手に入らないならばとカヤがウミヒコを手にかけるというパターンでした。
無事にハッピーエンド。二人とも生き残れてよかったです。
この物語に出てくるカヤはとても苛烈な女性です。
その炎のような在り方を、少しでも書けたらいいなと思います。
闇夜のカラスさんが書くラストが楽しみです!
最後まで見てくださってありがとうございます。 サポートいただけたら嬉しいです。執筆活動に使わせていただいています。しっかりお返しできるよう、精一杯頑張ります!