番外編8「手水舎にて」第4話(全5話)
壮馬くん、地味に雫を助けるの巻。(今回の文章量:文庫ほぼ見開き)
「これを見てください!」
どうせ言葉が通じないのだから日本語で叫び、俺は指差した。
右手に握りしめた「それ」──スマホを。
スマホは、奉務中は授与所の奥にある事務室に置いたままにしている。断腸の思いで雫を一人残した俺は、これを取りにいっていたのだ。
眉間にしわを寄せたままの三人組に、俺はスマホを突きつける。
ディスプレイに映っているのは、手水舎の使い方を解説した動画だ。
「これは、こういうものです。これは、こういうものです」
俺は必死に繰り返し、スマホと手水舎を交互に指差す。三人組は、俺の指先に操られるように、スマホと手水舎に順番に顔を向けていたが。
『アー!』
そろって声を上げると、表情から噓のように険しさが削げ落ちた。
「ゴメンナサーイ」「ユルシテ」「スマヌ」
片言の日本語を口にしつつ、雫に両手を合わせたり、頭を下げたりする三人組。ばつが悪くて、酔いが覚めたようだ。さらに続けられた言葉から察すると、雫に「お前らは汚らわしいから、ここの水を飲むな」と言われたと勘違いしたらしい。
雫は、とびきり愛らしい笑みを浮かべる。
「お気になさらないでください」
許してもらえたことを理解した三人組は、一転してはしゃぎ出した。ついで、スマホの動画を見ながら、ぎこちなくも丁寧に手と口を清め、社殿の方へと歩いていく。雫に、何度も手を振りながら。
どうにかピンチを乗り切った──俺が安堵の息をついた瞬間、雫は冷たい無表情に戻って言った。
「先ほど壮馬さんは『とっておきのもの』とおっしゃいましたが、スマホがそんな大層なものでしょうか」
「ほ……ほかに言うことはないんですか」
「そうですね、失礼しました。まずはお礼ですね。ありがとうございます。今後は、手水舎の作法を写した写真を貼っておきましょう」
雫はすなおに頭を下げてから、ほんの少し首を傾げた。
「壮馬さんが戻ってきたのは意外でした。あの人たちがこわくて、わたしの指示をこれ幸いと置いていったのかと」
はあ?