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番外編2「巫女さんは黒猫がお嫌い?」第4話(全4話)

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今回の文章量:文庫見開き強

 勘太さんによると、奥さんは黒猫を飼うことにあまり乗り気ではなかった。それでも、今朝、名前をどうしようか話し合っていると窓から逃げ出してしまった──。

「我が家は近いから、ここに来るかもしれないと思ったのですが」
「来てませんね。わたしに追い出されても戻ってきたのだから、野良猫になってもたくましく生きていきますよ。ここに現れたら連絡しますね」

 雫の言葉を受け、勘太さんは肩を落としながら帰っていった。

「さすがに、黒猫に冷たすぎませんか」

 眉をひそめる俺に、雫は首を横に振る。

「わたしまで一緒に動揺したら、勘太さんがますます落ち込んでしまうでしょう」
「それはそうですけど、もう少し──」

 うん?

「ということは、雫さんは黒猫がいなくなって動揺しているんですか?」

 雫は答えず、やって来た参拝者に「ようこそお参りです」と笑顔を向けた。

□□□□

 その日の午後。境内の掃除をしていると、雫の姿が見えなくなった。さがしていると、社殿の裏手から声が聞こえてきた。
 甘く、甲高く、なにより、幸せそうな声だ。

 なんだろう、と思いながら裏手に回った俺は見た。

「よーし、よしよしよし。かわいいねえ❤️」

 しゃがみ込んだ雫が、左手を動かしている。手の先にいるのは、昨日の黒猫だ。
 ひっくり返った黒猫は、黄色い目を細め、雫にお腹を撫でてもらっていた。

 なんだよ。やっぱり、かわいかったんじゃないか──。

 まさに「猫なで声」を出す雫の表情は、俺の位置からは見えない。絶対にかわいい顔をしている。近づこうとすると、雫が手をとめ、俺の方を振り返った。

 顔つきは、いつもと変わらぬ氷の無表情だ……って、あれ?

「なんですか」

 問いかける声もまた、冷え冷えとしている。

「猫は、ほかの参拝者の迷惑になるんですよね。なのに、そんな風に……」
「参拝者には、人間だけでなく、猫も含まれることに気づきました」

 俺が言葉の意味を理解できないでいるうちに、雫は参拝者向けの愛嬌あふれる笑みを浮かべ、再び黒猫のお腹をなで始める。

「おとなしくしてるんですよ。ほかの参拝者さまに迷惑をかけたら追い出しますからねー、八咫【やた】」
「八咫?」
「この子の名前です」

 俺にはきっちり無表情に戻って、雫は言った。
 勘太さんを差し置いて名前をつけるなんて。かわいがるにもほどがある。

 昨日、八咫烏がどうとか訳がわからないことを言ったのは、本当はかわいがりたいのを我慢していたからだったんじゃないか?

□□□□

 その後、迎えにきた勘太さんは、雫と八咫の様子を見るなり言った。

「この子は、ここにいた方が幸せそうだ」

 かくして八咫は、源神社で半ノラとして暮らすことになったのだった。

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