番外編2「巫女さんは黒猫がお嫌い?」第2話(全4話)
第1話はこちら
毎週猫写真をアップしているので説明不要でしょうが、作者は猫派です(今回の文章量:ほぼ文庫見開き)
「猫がかわいくないんですか!」
つい大きな声を上げる俺とは対照的に、雫は冷静沈着のお手本のような声で答える。
「かわいいですよ。犬派か猫派かと訊かれたら、猫派ですし」
雫は静かに首を横に振り、「でも」と続ける。
「参拝者さまの中には、猫が嫌いな人も、猫アレルギーの人もいるでしょう。迷惑になるから、猫に境内をうろつかせるわけにはいかないんです」
「だからって、なにも追い出さなくても……」
「みなさまに気持ちよく参拝していただくことも、巫女の務めです。日本神話で猫が重要な役割を果たしているのなら、見て見ぬふりをしてもよかったのですが」
うん?
「どういう意味です?」
「日本神話で猫の出番は多くありません。あの黒猫は、神社に存在していい理由がないということ。どうせ黒い生き物なら、烏だったらよかったんです。八咫烏は、熊野から大和へ入る神武天皇を導くため、天照大神に遣わされたと伝えられてますからね」
意味がわかるようでわからない。でも、こちらを凍りつかせるような瞳に見据えられ、反論できなかった。
俺の沈黙を納得と判断したのか、雫は「仕事に戻りましょう」と社務所に向かいかける。
そのとき。
「にゃー」
さっきの黒猫が、階段を駆け上がり、小走りに向かってきた。
「お前、戻ってきたのか」
思わず駆け寄った俺を、しかし黒猫は巧みに避けて雫へと突進し、緋袴に顔をすりつけようとする。動物は序列を重んじるというから、雫が「ここの主」と判断したのか(ある意味、正しい)。
これはかわいい。さすがに雫も──。
「汚れます」
俺の予測を薙ぎ払うように、雫は緋袴の裾をぱたぱたさせ、黒猫を追い払おうとする。顔つきは氷のように冷たいままだ。
本当に猫派なのか!? めげずに雫に甘えようとする黒猫が不敏すぎる!
「それは、野良猫ですかな」
声に振り返ると、佐藤勘太さんが立っていた。
源神社の氏子たちの代表、氏子総代である。
明治時代から元町にある洋装店の店主で、70歳をすぎているとは思えないほど若々しい。
手にはなぜか、見るからに古い動物用のバスケットを持っていた。
「はい、野良猫です」
答える雫は、一瞬にして参拝者向けの愛嬌あふれる笑みを浮かべていた。そうしながらも、迫りくる黒猫に裾をぱたぱたさせ続ける。さっきまで違って、巫女さんと黒猫が戯れているようにしか見えない。
内心でため息をつきつつ、俺が状況を説明すると、勘太さんは言った。
「私に引き取らせてもらえないかな」