番外編8「手水舎にて」第2話(全5話)
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タイトルとは裏腹に、手水舎が一切出てこないな……。(今回の文章量:文庫見開き弱)
一人が強い口調で言ったのを皮切りに、ほかの二人も、勢いよくなにか捲し立て始めた。俺は慌てて授与所を飛び出し、雫の傍に駆け寄る。
「どうしたんですか?」
「わたしが話した英語の意味を誤解して、怒っているようです」
参拝者向けの愛くるしい笑顔のまま答えられたので、言葉の意味を理解するのが一拍以上遅れたが。
「まずいじゃないですか!」
「そうですね。勉強中でまだ手探りなのに、自分の英語力を過信してしまいました」
手探りなのに、いつも堂々と外国人観光客と話しているのか、この子は。
俺が責任者だと思ったのだろう、三人組は、俺に喰ってかかる。そのとき初めて、息が酒くさいことに気づいた。顔も赤い。まだ昼すぎなのに。
雫の英語ではなく、酔っ払ったこの人たちが悪いとしか思えない。なんとか宥めようとした俺と三人組の間に、雫は小さな身体を強引に割り込ませた。
「ここは、わたしにお任せください」
「それは俺の台詞です。宮司さまを呼んできてください」
「宮司さま」こと俺の兄貴・栄達は、外国語をまったく話せない。でもさわやかな笑顔を駆使し、場を丸く収めることが得意だ。いまは社務所で新郎新婦と神前結婚式の打ち合わせ中だが、兄貴に任せれば大丈夫!
しかし雫は、首を横に振った。
「これは、わたしの仕事です。おめでたい話をしている宮司さまを巻き込むわけにはいきませんし、壮馬さんに手伝っていただく必要もありません」
「なにを言って──」
「壮馬さんは、授与所に戻ってください。その方が助かります」
自分たちを差し置いて会話していることが気に食わないのか、三人組はさらにいきり立ち、叫ぶように言葉を並べ立ててくる。全員プロレスラーのような体格のせいで、思わず身構えてしまうほどの迫力だ。
三人組を見据えながら、俺は考える。
このまま俺がここにいたところで、やれることはなにもない。英語を話せないから、説得も不可能。つまり、俺は役に立たないということ。
だったら……雫も、その方が助かるらしいし……。
「──わかりました」