番外編2「巫女さんは黒猫がお嫌い?」第3話(全4話)
今回の文章量:文庫見開き弱(ちょっと少なめ)
勘太さんは昔、猫を飼っていた。死んで随分と経つが、家を整理していたらバスケットが出てきたので、「お焚き上げ」を頼もうと思って持ってきたのだという。
神社では、古くなったお守りやお札、その他参拝者から依頼された物を燃やして供養する儀式が行われる。
これが、お焚き上げだ。
もちろん、なんでもかんでも燃やすわけではなく、あまりに大きな物や、有害物質を撒き散らす物はお断りする。最近は、近隣住民から「煙たい」とクレームが来るので、お守りやお札のお焚き上げすらできない神社もあるようだ。
「年が年だから面倒を見られるか不安だが、お焚き上げを頼もうと思ってその猫に会ったのもなにかの縁。私に飼わせてもらえませんかね」
雫はにっこり微笑むと、黒猫の後ろ首をつまんで持ち上げた。
「うちの猫ではありませんから、ご自由にどうぞ」
「ありがとう」
勘太さんがバスケットの蓋を開けると、雫はその中に黒猫を器用に放り込んだ。黒猫は「裏切られた」と言わんばかりに目を見開いて飛び出そうとしたが、それより先に勘太さんが蓋を閉める。
「うちの店の看板猫になってくれよ」
勘太さんに連れられ、黒猫は去っていく。「にゃー、にゃー!」と悲鳴に似た鳴き声を上げながら。
雫は「バイバイ。元気でね」と笑顔で手を振るのみ。
「これでよかったんですか」
遠ざかっていく鳴き声を聞きながら問う俺に、雫は当然のように頷いた。
「あの子がここに居着こうとしても、わたしは何度でも追い出します。それなら、飼い猫になった方が幸せです。さあ、今度こそ仕事に戻りますよ」
社務所に歩いていく雫は「一件落着」と思っているようだが、俺は心配だった。あの様子だと、黒猫は雫を「ここの主」と思っただけではなく、よっぽど気に入ったのだと思う。
無理やり連れていって、大丈夫なのだろうか?
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不安は的中した。
翌日の昼前。授与所で雫と番をしていると、勘太さんがやって来て、肩を落として言った。
「あの黒猫が、いなくなってしまいました」