番外編5「神社にはお酒がよく似合う」第1話(全4話)
「神社にはお酒の寄進が多い」という蘊蓄から膨らませた話。本編では絶対にできないノリです。本編未読の方は、先にこちらをご覧いただいた方が楽しめるかも。(今回の文章量:文庫見開き強)
源神社ではなにかと宴会が開かれるので、社務所に立派な台所がある。冷蔵庫も大きく、中にはいつも大量の酒が入っている。
今日は缶ビールの傍に、見慣れない茶色い缶が置かれていた。お茶かな、と思いながら手に取ると、「これはお酒です」と書かれている。ウーロンハイだった。「未成年が間違えて買う」とクレームが来そうなパッケージだ。
「さっき、祈禱の依頼に来た人からもらったんだ」
兄貴が声をかけてきた。
神社に寄進された飲食物は、ひとまず神棚に捧げるのが原則だ。でも源神社の場合、神職が個人的にもらったものに関しては「このかぎりではない」としている。
そうでないと、女性ファンが多い兄貴がやたら寄進を受けるので、神棚が飲食物で埋まってしまうからである。
「家の冷蔵庫が一杯だから、ひとまずここに避難させてもらった。そのうち飲むよ」
「雫さんが間違えて飲んだりしないかな」
しっかりしてはいるが、雫はまだ17歳だ。アルコールを飲ませるわけにはいかない。
「『お酒です』と書いてあるから大丈夫だと思うけど、一応、雫ちゃんに伝えておいてね」
雫は、今日は巫女舞の稽古で師範のところに行っていて、夜まで戻らない。俺が「了解」と答えるのと同時に、授与所の方から「すみませーん」と声が聞こえてきた。
「はい」と応じながら、ウーロンハイを冷蔵庫に戻す。
それきり、このことは忘れてしまった。
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翌朝。白衣白袴に着替えた俺が事務室に行くと、もう雫の姿があった。巫女装束を纏った姿は、今日も凜々しい。
「おはようございます、壮馬さん」
「おはようございます。巫女舞の稽古で疲れてるんじゃないですか」
「鍛えているから平気です」
さすが、毎朝、汐汲坂をジョギングしているだけのことはある。身長は150センチ前後しかないけれど、ガタイのいい俺より体力があるんじゃないか。俺が半ばあきれつつ思うのと同時に、雫は前触れなく言った。
「壮馬さんには、おつき合いしている人がいらっしゃいますか」
「は?」
「おつき合いしている人ですよ。恋人と言い換えても差し支えありません」
「いま──いませんけど」
「いまは」と言いかけたが、咄嗟に言い換える。
「では、好きな人は?」
なんで、こんな質問を? まさか、俺の気持ちに気づかれたのか? うまく隠してきたつもりだったのに。でも、なにも朝っぱらから……。
「どうなんです? いるんですか、いないんですか?」
俺に歩み寄りながら言っている最中、雫が。
前のめりに転んだ。