マガジンのカバー画像

登場人物紹介、試し読み、番外編

33
マガジンのタイトルどおり。現在、番外編も連載中。
運営しているクリエイター

2019年3月の記事一覧

番外編5「神社にはお酒がよく似合う」第3話(全4話)

第1話はこちら 第2話はこちら 本編では書けない、クールビューティーな雫が壮馬に迫る話。(今回の文章量:ほぼ文庫見開き)  俺に好きな人がいるかどうか、気になっている。ということは、ひょっとして雫も俺のことを──。  期待が膨らんでいく。ごくり、と唾を呑み込み、俺は訊ねる。 「どうして、そんなことを知りたいんですか」 「教育係として、壮馬さんのことをもっとよく知る必要があるからです」  期待が萎む音が聞こえた。  この訳のわからないロジックは、まさに酔っ払いだ。 「

番外編5「神社にはお酒がよく似合う」第2話(全4話)

第1話はこちら 酔っ払った巫女さんが雑用係に迫る話(たぶん)。(今回の文章量:文庫見開き弱) 「だ……大丈夫ですか!?」  俺は慌てて駆け寄る。袴は狭い歩幅でしか歩けないので、慣れるまではバランスを崩しやすい。  もちろん、雫が慣れていないはずがない。  雫は、俺が差し伸べた手をつかむと、表情一つ変えずに起き上がった。この子が氷の無表情なのはいつものことだが、さすがに様子がおかしい。  お礼の一つも言わないことも、らしくない。  そのときになって俺は、雫の机に、昨日

番外編5「神社にはお酒がよく似合う」第1話(全4話)

「神社にはお酒の寄進が多い」という蘊蓄から膨らませた話。本編では絶対にできないノリです。本編未読の方は、先にこちらをご覧いただいた方が楽しめるかも。(今回の文章量:文庫見開き強)  源神社ではなにかと宴会が開かれるので、社務所に立派な台所がある。冷蔵庫も大きく、中にはいつも大量の酒が入っている。  今日は缶ビールの傍に、見慣れない茶色い缶が置かれていた。お茶かな、と思いながら手に取ると、「これはお酒です」と書かれている。ウーロンハイだった。「未成年が間違えて買う」とクレー

番外編4ボツシーン(『彼女が花を咲かすとき』とのコラボ)

※本編冒頭、「元町商店街の花屋に行く壮馬と雫」の場面に入れるつもりだったボツシーンです。冒頭試し読みと合わせて読んで、どこに入れるつもりだったか想像していただいてもおもしろいかも。(今回の文章量:文庫見開き弱)  そうこうしているうちに、目的の花屋《あかり》に着いた。世界的に有名なフラワーデザイナーが始めた花屋のチェーン店だが、納得できる条件の場所にしか出店しないため、国内に数店舗しかないのだという。  こんなすごい店が何気なくあるのも、元町ショッピングストリートの特徴だ

番外編3「巫女さんの前髪」第4話(全4話)

第1話はこちら 第2話はこちら 第3話はこちら なにげに番外編で兄貴が出てくるのは初めてだ。(今回の文章量:文庫見開き強)  その日の夜。草壁家の居間。雫と琴子さんは、早めに部屋に上がった。  俺は兄貴と酒を飲みながら、雫の前髪の話をした。「内緒」と言われたが、宮司の兄貴なら知っているから構わない、と自分に言い訳した。  要は、まあ、雫の話を誰かとしたかったのである。 「へえ。雫ちゃんが、そんなことをねえ」 「もしかして、兄貴は知らなかったのか」 「うん。知らなかった

番外編3「巫女さんの前髪」第3話(全4話)

第1話はこちら 第2話はこちら 一応、時系列的には本編の第三帖と第四帖の間の話になると思います……って、作者のくせに他人事感半端ねえ!(今回の文章量:ほぼ文庫見開き)  雫の実家は、札幌にある由緒正しき神社だと聞いている。 「実家の神社では、未熟な巫女はおでこを出してはいけないことになっています。そんな巫女が顔を見せることは、神さまに失礼だからです。そういう環境で育ってきたから、わたしもおでこを出して奉務することには抵抗があります」 「雫さんは未熟じゃない。パーフェクト

番外編3「巫女さんの前髪」第2話(全4話)

第1話はこちら 今回の文章量:文庫見開き弱 「巫女の髪型は、神さまに顔をお見せするために、おでこを出すことが原則なんです」  雫はそう言うなり、左手で前髪をかき上げた。形のよいおでこが露になる。 「ほら。この方が、顔がよく見えるでしょう」と、言われたのだと思う。  おでこを出した雫が新鮮で、よく聞こえなかった。  この前、赤レンガ倉庫に行ったときもおでこを出していたけれど、あのときは私服だったから……。巫女装束だと、これはこれでまた違った魅力が……。心構えができて

番外編3「巫女さんの前髪」第1話(全4話)

一作目を書いているときに知ったけど、本編に入れられなかった巫女さんの前髪蘊蓄を思いっ切り膨らませて、フィクションを織り込んだ話です。(今回の文章量:ほぼ文庫見開き)  巫女の仕事は、優雅なイメージとは裏腹に肉体労働だ。境内を隅々まで掃除しなくてはならないし、神職が祈禱に出かけるときは細々とした神具を用意することもある。  雑用係である俺は、雫のこうした肉体労働を手伝っている。ガタイがよくて体力は人並み以上にあるので、役に立っているという自負はある。  ただし、俺には手伝い

番外編2「巫女さんは黒猫がお嫌い?」第4話(全4話)

第1話はこちら 第2話はこちら 第3話はこちら 今回の文章量:文庫見開き強  勘太さんによると、奥さんは黒猫を飼うことにあまり乗り気ではなかった。それでも、今朝、名前をどうしようか話し合っていると窓から逃げ出してしまった──。 「我が家は近いから、ここに来るかもしれないと思ったのですが」 「来てませんね。わたしに追い出されても戻ってきたのだから、野良猫になってもたくましく生きていきますよ。ここに現れたら連絡しますね」  雫の言葉を受け、勘太さんは肩を落としながら

番外編2「巫女さんは黒猫がお嫌い?」第3話(全4話)

第1話はこちら 第2話はこちら 今回の文章量:文庫見開き弱(ちょっと少なめ)  勘太さんは昔、猫を飼っていた。死んで随分と経つが、家を整理していたらバスケットが出てきたので、「お焚き上げ」を頼もうと思って持ってきたのだという。  神社では、古くなったお守りやお札、その他参拝者から依頼された物を燃やして供養する儀式が行われる。  これが、お焚き上げだ。  もちろん、なんでもかんでも燃やすわけではなく、あまりに大きな物や、有害物質を撒き散らす物はお断りする。最近は、近隣住

番外編2「巫女さんは黒猫がお嫌い?」第2話(全4話)

第1話はこちら  毎週猫写真をアップしているので説明不要でしょうが、作者は猫派です(今回の文章量:ほぼ文庫見開き) 「猫がかわいくないんですか!」  つい大きな声を上げる俺とは対照的に、雫は冷静沈着のお手本のような声で答える。 「かわいいですよ。犬派か猫派かと訊かれたら、猫派ですし」  雫は静かに首を横に振り、「でも」と続ける。 「参拝者さまの中には、猫が嫌いな人も、猫アレルギーの人もいるでしょう。迷惑になるから、猫に境内をうろつかせるわけにはいかないんです」 「

番外編2「巫女さんは黒猫がお嫌い?」第1話(全4話)

本編未読の方は、先にストーリー&登場人物紹介をご覧ください。 巫女さんと猫の話です(今回の文章量:ほぼ文庫見開き)  境内の玉砂利を箒で均していると、楠の根本に人が集まっていることに気づいた。人数は7、8人。若い男女や子ども、お年寄りもいる。 「かわいいー」 「超なつっこい!」  ここ源神社は、横浜・元町という場所柄いつも参拝者が多いが、ああいうのは珍しい。なんだろう、と思って様子を見に行くと。  「にゃー」  黒猫がいた。  サイズ的に、まだ子猫だ。首輪もして

番外編1「雫ちゃんの照れ顔」(後編)

前編と合わせてお読みください。 (今回の文章量:文庫見開き強)  恥ずかしがっている「ふり」? 「どうして、そんなことを?」 「小林さんは、わたしに絵のモデルを頼んだとき、こう言いました」  ──フェルメールの『真珠の耳飾りの少女』や、ルノワールの『イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢』に匹敵する名画が描ける! 「どちらも、はにかんだ少女をモデルにした絵です。『真珠の耳飾りの少女』は鑑賞者によって解釈が異なるので一概に言えませんが、『イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢』と

番外編1「雫ちゃんの照れ顔」(前編)

本編未読の方は、先にストーリー&登場人物紹介をご覧ください。 (今回の文章量:文庫見開き強)  できるだけ音を立てずに襖を開けたが、小林さんはキャンバスから俺に顔を向けた。 「お邪魔してすみません」 「もう終わるところだから構わんよ」  絵筆をパレットに置いた小林さんは、俺の手にある麦茶を見て口許を緩める。 「こっちこそ、お茶を持ってきてもらったり、調べ物をしてもらったり、何度も呼び出して悪いな」 「いえ、そんな」  むしろうれしいです、と内心で応じつつ、俺は雫に