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独立して一年。求めた「手触り」、大切にした「ものさし」

最後の出社を迎えた2023年6月30日、そう今からちょうど一年前、僕はフリースペースながらいつもだいたい座っていた定位置の場所にリュックを置き、パソコンを開いた。

お世話になった皆さんへのご挨拶は2週間ほど前にメールを送っていたけれど、誰が見てくれるかはわからないけど、NHK全ての職員に感謝の思いを伝えたく、社内のTeamsのステータスに感謝の思いを残した。

あの日から1年が経ちました。

NHKを退職後、僕はAMANEQ(あまねく)という映像会社を立ち上げました。

「なぜ、辞めるの?」「なぜ、辞めたの?」 たくさん聞かれました。

理由はたくさんありますが、数ある中で一番スッと出てくる理由があります。

それが「手触り感」でした。

次第に意識していった手触り

素敵な環境に恵まれ、重要なポジションに立ち、どんどん大きな仕事を任されていく中で、大きな達成感や充実感を得られる日々ではありました。

ただ、どこかでモヤモヤした思いが数年続いていました。

多分、私は不器用だったんだと思います。

全ての仕事において、「手触り」は感じられます。感じられない現場なんてありません。今の仕事で何か思うことがあれば、キャリアで悩んでいることがあれば、いくらでも同じ組織の中で「違う選択肢」があります。でも、どこにいても、変わらないのは、会社の3文字の渡部玲であること。

「そこから離れてみたら、自分って何者なんだろう」

30代半ばあたりからそんなことを意識するようになっていました。

でも、それは別に自分の実力やスキルを過信して、「独り立ちして勝負したい!」という思いというよりは、NHKという公共事業体の中で様々な経験をさせていただいた中で、そこで培った経験や価値観、番組を作る上でのスタンス、制作プロセスにおける様々な判断基準、こうしたものを内に留めるのではなく、できるだけ早い段階で外(社会)に還元すべきだと思っていたからです。

NHKが育ててくれた「ものさし」

受信料で経験させてもらったものは、どこかでそのお返しをしなければならない。オーバーでも冗談でもなく、本当にそう思っています。

NHKでは様々なアニメを放送していますが、初めてNHKで放送するアニメの制作会社はその制作プロセスにおける「NHK基準」に驚かされるそうです。民放や様々なサブスクのメディアでもアニメは放送されていますが、何を伝えるか、その演出は適しているのか、かなり深いところで議論がされています。

このことは別にアニメに限ったことではなく、「NHKで番組を作る、情報を伝える」ということはそのプロセスにおいて非常に重要な判断と「ものさし」があるのです。もちろん、その全てが正しい判断、ものさしではなく、時に間違った、疑念を抱くものもあります。そこは猛省しなければなりません。

そんな環境で18年仕事をしていると感じるようになってきたのが「社会とのつながり」です。

著作権や様々な乗り越えるべきものはありますが、NHKはコンテンツやリソースをより一層オープンにしていく必要はありますが、人材、組織全体ももっともっと社会に対してオープンな存在であるべきだと思っています。結構この議論は、労組時代に経営、人事にも投げかけました。

少し脱線しましたが、40歳が近づいてくる中で「この自らの手で、誰かと、社会と、繋がりたい」その想いが日に日に高まっていきました。

そして、ちょうど1年前、私は離れました。

手触りを求めて

独立してからこの一年、売り上げや会社のビジョンも大事ですが、何より優先したのは、「手触り」でした。それは、何か数字で見えるわけでも、仕事の大小で決まるものでもありません。

自分の中の感覚の世界なので、なんとも言えないのですが、日々の「手触り」が活力になっていました。

この一年営業という営業はしなかったのですが、人のご縁にも恵まれ、様々なお仕事をさせていただきました。

この一年の仕事を振り返ると

・プロデューサー(イベント運営)
・テクニカルディレクター(オーケストラやロックコンサートの撮影、統括)
・映像カメラマン(プロモーション撮影、コンサート撮影)
・ディレクター(ドキュメンタリー、映像演出)
・映像編集マン
・デザイナー(番組ロゴ、デザインなど)

業務の内容に合わせて様々な関わりをしました。特に音楽コンサートの撮影が多かった一年ですが、先日、弊社の取り組みをSONYさんが広報noteで記事にしてくださいました。

公になっていないクローズドなコンテンツも沢山制作してきました。海外のドキュメンタリーにも関わらせていただく機会もありました。



NHKを離れてみて、音楽番組をはじめドキュメンタリーや様々な番組を見ていると、羨ましくなったり、これまで以上のリスペクトを感じることもあります。

人財も、リソースも、社会における影響力も何もかもが巨大です。改めて、すごい組織だったんだなと感じます。

でも、僕はそこで得たひとかけらを持ち出して、外に出てみました。

僕は、本職でカメラマンをやってきたわけではありません。世界中が驚くようなグレーディング技術やすごいポストプロダクション能力を持っているわけではありません。でも、少しでも追いつきたいと日々努力はしています。

でも、それ以上に、映像やコンテンツを作る上での大切な「ものさし」だけは自信を持っています。それはカメラを撮る時にも、そのカットをつなぐ時にも、音をつける時にも、打ち合わせで議論をする時にも、全て心の中で自分の「ものさし」をみています。

クライアントやお客様に映像をお届けしたり、イベントを終えた時に喜んでいただけた時には、その自分の「ものさし」は間違ってなかったんだと感じます。

もちろん誰もが、自分の「ものさし」を持っています。それまでのキャリアや経験、出会ってきたもの、全てがそれぞれのものさしを形成します。

今私がいる映像業界でいえば、その適切な「ものさし」をしっかりとクリエイターが持っているかどうか、それがとても大事になってくるでしょう。レッドオーシャンとなっている動画の世界では、映像の編集スキルやカメラを扱うテクニックは横一線になってきています。その中でどう差別化していくか。なかなか言葉や形には見えないものですがクリエイターにとって核となっていきます。

さて明日から、2期目がスタートします。また新たな気持ちでこの1年を駆け巡りたいと思います。そして、今期は、もっとたくさんnoteを書きます、ごめんなさい。




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