「僕のちんこにピアス開けてください」5
この頃になると、紗季さんのSNSは更新されなくなった。
この事は俺をとても焦らせた。様々な事がどうでもよくなった。彼女とは別れ、マッチングサイトも開かなくなった。空いた時間はバイトを増やし、気がおかしくなりそうな時は紗季さんの書いた物語を読んだ。
何度も読み返し、紗季さんの物語の中で過ごした。紗季さんを見上げ、紗季さんの体温を感じた。痛みも、匂いも、体温も、全て感じられた。
暗く冷たい水の中、何とか息継ぎをし、前より深くまで落ちていく。もう上がれない。水面を見上げる。力を抜いて目を閉じようとすると、眩しい光の中から紗季さんが手を伸ばすんだ。俺は嬉しくて溢れてきてしまう涙が止められない。最後の力を振り絞って必死に手を伸ばす、紗季さんの手を掴もうと。そんな俺の姿をギリギリまで眺めると水に溶けるように消えてしまう。だけど紗季さんは笑ってた。俺はまた冷たい闇に沈んでいきながら、紗季さんの可愛い笑顔に夢を見る。
「そうか、19歳になるのか、早いな。何だかんだ連絡も取り続けてるし。しぶといね、君は 笑」
「僕には長かったです。19歳の誕生日祝いに一つお願いしてもいいですか?」
「なんだい?」
「紗季さんの声が聞きたいです」
「電話したいってこと?」
「はい」
返信が止まる。足先から上ってきた痺れが、ふっ、とため息になって排出された。やっぱりだめか。
ごめんなさい、二十歳まで我慢します。
返信を打っていた指が止まる。
ー動画受信ー
『少年! 19歳の誕生日おめでとう。いい男になるんだぞー。紗季でした!』
黒い画面から女性の声が流れた。
これは…紗季さん。これが、紗季さんの声。
想像していたより可愛らしい声。もっと大人の女性の声を想像していた。可愛い。すごく可愛い。
「少年って、もう僕19歳ですよ」
今にも走り出しそうな自分を落ち着かせるためか、どうでもいい言葉が口から零れ出る。もう一度。何度も、何度も再生した。携帯に耳を隙間なくくっつけて一つの音も漏らさないよう、そこにいる紗季さんだけに、全ての神経を集中させて。
「嬉しすぎます」
「電話じゃなくてごめんねー喜んでもらえてよかったよ」
「僕が彼氏になっちゃだめですか」
「ん?」
「二十歳になって会えたら、僕が紗季さんの彼氏になりたいです、無理ですか?」
初めて聞いた声。急に紗季さんの存在が現実味を帯びた。誰にも渡したく無い気持ちが俺の身体を突き抜けた。
会ってすらくれない人に、どうして彼氏にしてほしいだなんて言えただろう。
きっとそれは、俺が若く、紗季さんがあまりに遠かったからだ。
「君ね、無理に決まってるだろう 今そんな約束はできないよ。」
「なんでですか」
「未来はどうなるかわからないけど、今答えが欲しいとしたら無理だね」
「わかりました」
やばい、何か言わないと。
「紗季さん、俺、ちんこにピアス開けるとき、泣かないで開けられたらキスしていいですか」
「あのね、ちんこにピアス開けたいのは君の希望でしょ? 泣かないで開けるのは当たり前、ご褒美が多すぎるわよ」
「すいません、でもしたいんです。だめですか?」
「わかった、じゃあこうしよう。泣かないで開けられたら手にキスすることを許す。だけど目に涙溜めた時点で無し、あと、その後二度と会わないわ。わかった?」
「やった!!!! やりとげてみます!!!」
何度も想像した紗季さんの手、キスできる。細くて、温かくて、いい匂いがするだろうな。
早く、二十歳になりたい。
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