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占いで転職活動を決めた
仕事を休んで箱根に行った。
きっかけは占いである。あの日、多分私はとても疲れていた。仕事の先が見通せないというかやる意味が見いだせないというか。そんな仕事なのに終電での帰宅ばかりで寝てすぐ出勤、自炊もできない。という状況にこのままだとメンタルがまずい、と本能的に察知したんだと思う。
気づいたら無印週間中の無印で爆買いしていて、また気づいたら占いに行っていた。普段は別に占いはみない。雑誌の巻末とかに載っていたらみるくらいで。
「休みなさい、旅行でも行って何も考えずぼーっとしなさい」
やたらとはきはきしたおばさま占い師はそう言った。他にもいろいろと言われたけれど、なによりもまずするべきことは旅行だと。
普段、私はあまり遠出をしない。人混みや行列が苦手というか嫌いで、土日の繁華街や観光地なんて死んでも行きたくないからだ。みんな正気??となってしまう。正気なんだろうか、あれは。
そんな私が、おばさま占い師の言うことに従うことにしたのは、普段は行こうなんて思うはずもない占いに行ったこと、そこで自分が積極的にするはずのない行動をまずやれと示されたことには、何か意味があるのかと思ったからだ。
やると決めたら私は行動が早い。その次の日には無理やり休みをもぎ取り、旅行先を決めていた。水辺、クラシックなホテル、静かそうなところ。向かったのは箱根の芦ノ湖である。
新幹線とバスに長いこと揺られたどり着いた芦ノ湖はとても綺麗だった。金曜日の箱根はそこまで人も多くなく、のんびりと散策ができた。湖畔のカフェで、好きなニルギリとスイーツを頼んで。あいにくの曇天だったけれど、それでもきらきらした湖面と水音、久しぶりのちゃんと淹れた紅茶の香りで癒された気がした。
ホテルに着いた後もやりたいことだけをやった。ラウンジで高いロイヤルミルクティーを飲み、高いルームサービスを頼み、宿泊費よりも高いスパの施術を受けた。残業代よ、ありがとう。
ただ、なんだろう。そういう風に贅沢に過ごしたところで、明日から頑張ろうとか、そんな前向きな気持ちになるわけではなく。
私、何をしているんだろうなと。朝っぱらから温泉に浸かりながら思った。
ここまでして行く意味あるのかなと。美術館に行くために1時間以上かかる距離を、バスを乗り継ぎ移動しながら思った。
何も考えるなとおばさま占い師は言った。そうしているつもりだった。けれど実際は、自分の行動の意味を、その行動が生み出すものを私の頭は探し続けていた。
温泉は気持ちよかった。美術館は素晴らしかった。これらは家にいるだけでは得られない経験で、意味がないわけがない。ただ、どうしても気持ちが上向かない。
結局、すっきりしない気持ちのまま帰宅した。家に入ると響いたのは「みぃみぃ」という甘えた声。リビングに続くドアを開けて、愛猫の姿が視界に入った瞬間にやっと自分の中でずっと引っかかっていたものが理解できて、「ただいま」と発した声が掠れた。
「休みなさい」と「何も考えずぼーっとしなさい」を実現するために旅行なんて行く必要なんてなかったのだ。だって、彼女のそばにいるのが一番癒される。生き物と暮らした経験がある人ならわかるだろう。ふわふわの温かい生き物が、私のことが大好きだと喉を鳴らしながら寄り添ってくれる。それ以上の幸せなんて知らないし、その時にかわいい以外の感情なんて浮かばない。
そんなことも忘れるほどに疲れていたらしい。ただでさえ残業続きでなかなか構ってやれずにいるなかで、泊りがけの旅行に行って留守番させたのだ。ちゃんと意味を見つけて、必要なことだったと言えなければ彼女に申し訳がないと無意識のうちに思い続けていたようだ。
実際に彼女がどう思っているかはもちろんわからない。さみしいと思っているのか、人間なんていないならいないで構わないわごはんさえあれば、と思っているのか。けれど、久しぶりの休日出勤のない土日をずっと私のそばで過ごしているあたり前者なのではないかと思ってしまう。
私が本当に大事にしたいものと働く意味を思い出させてくれて、以前からなんとなく考えていた転職活動を本気でやろうと決意させてくれたおばさま占い師に感謝。(実は今はまだ転職のタイミングじゃないと言われたけれど)