かじるバターアイスに足りないのは背徳感だという話
私は親のいない時を見計らって調味料をコッソリ舐めるという、水木しげるワールドの妖怪みたいな幼少期を送っていた。
特に好きなのは味覇や鶏ガラスープやコンソメだ。
親のいない間に親のエロ漫画を読むのも趣味だったため(過去記事参照)、味覇を舐めてエロ本を読むという最低なルーティンが趣味となっていた。
もちろんバターも例外ではない。
ただ、バターは他の調味料と違って区切られて保管されており、親にバレないためには1ブロックくすねる必要があるのだが、キッズの胃にバター1ブロックは重すぎる。
けっきょく満足にバターをくすねることが出来ずに私の青春は幕を閉じた。
時は流れ、こんな商品が話題となった。
「かじるバターアイス」
あの頃の憧れが今ここに蘇ったのである。
食べるではなくかじるという商品名に、「お前の欲望、俺が叶えてやんよ…」といった赤城乳業の漢気が感じられてとてもよいと思う。
しかしコンビニを回ってみたものの、どこも売り切れていたため結局食べることは出来なかった。
唇を噛み締めながらインターネットの海を眺めていたところ、カノーブルという食べるバター専門店にバターアイスがあることを知った。
かじるバターアイスと比べると全然値が張るが、どうせバターをかじるなら高級なものがいい。
童貞を卒業するなら、ケチらず高級ソープに行くべきなのである。
誕生日が近かったこともあり、私はバターアイスを購入した。
しばらく経ってバターアイスが到着した。
右の黒いものは、カノーブルの看板商品である食べるバターである。
SNSでこの手のカタカナだらけの自己紹介をしている人には近付かないというのが持論である。
そしてメタモルフォーゼという単語がプリキュア5の専門用語ではないということをここで知った。
要するに、解凍してパンにぬっても美味いということだ。
実食
とにかく硬い。
新幹線アイスがカチカチアイス界の番長ヅラをしているなら、今すぐその椅子を譲れというくらい硬い。
塩が足りないかなとも思うが、確かに味はバターである。凍らせたバターだ。
例えるなら、クッキーを焼く時に最初に作るバターに砂糖を混ぜたアレに似ている。もちろん私はそれを舐めるのも好きだ。
しかし私の心は踊らなかった。
マッドサイエンスもメタモルフォーゼもサイバーパンクも何一つ分からない。
かなり小さなアイスなのだが、半分くらい食べてから冷凍庫に閉まってしまった。
ひとつ分かったことがある。
あの頃の私は背徳感を食っていたのだ。
予約をし、金を払い、到着時間指定し、コーヒーを淹れ、椅子に座って、スプーンで食べるバターには何の価値も無かった。
親のいぬ間に冷蔵庫からコソコソくすねたあの背徳感がないのだ。
今も私の冷蔵庫にバターはあるが、これは私が買ったものだ。勝手に食べたところで誰にも怒られない。
大人になって得た自由で美味くなくなるものがあるのだと、皮肉にも誕生日に買ったアイスで思い知らされたのである。
その夜コンビニのアイスコーナーで、大量入荷されたかじるバターアイスを見掛けた。
なんとなく買う気にもなれずに、私は雪見だいふくを買って帰った。
その数日後、何の因果か友人が「前にかじるバターアイスめっちゃ探してたやろ?コンビニにあったから買ってきたで」とかじるバターアイスを買ってきてくれたのである。
やけにテンションの低い私を心配されたので上記の話を力説したところ、
たった一言「で?いるの?いらんの?」とブチギレ気味に言われたので、いります…と言って頂いた。
目隠しして「これはめちゃくちゃ美味しいバニラアイスです」と言って食べさせられたら、「めちゃくちゃ美味しいバニラアイスだなぁ」と思う味がした。
以上です。