メモリアルワールドーアマンド生前編(1)ー
僕は、8年間、この教会で暮らしている。
「アルファルド」そう呼ばれている。
これは、神父様がつけてくれた名前だ。
僕は、いわゆる孤児なのだが、この教会には、似たような境遇の子供が沢山居た。
両親は、僕が産まれてすぐに、命を落としたと、大好きな神父様が教えてくれた。そして、教会の神父様やシスターさんが、世話をしてくれていた。
それに恩返しがしたくて、聖歌隊になりたいと神父様に告げると、大喜びしてくださり、そのために、必死で努力をし、4歳にして聖歌隊の一員となることができた。
元々、ここで暮らしている孤児達は、聖歌隊に入ることが多く、意思さえあれば、どんなに幼い頃からでも、音楽的な教養を身につけることができ、年少から、聖歌隊の一員になれる環境だったとはいえ、「4歳」という年齢で、聖歌隊に入るのは、異例中の異例だったらしい。
そんな異例だったからこそ、聖歌隊のお兄さんやお姉さんから、尊敬の目で見られることも、嫉妬の目で見られることもあったが、別に気にはしなかった。
だって、それだけ、僕が優秀だってことでしょ?
そう思い、毎日平和に暮らしていた。
聖歌隊として活動していると、教会の外にでる機会が増えるのだけれど、そこで、「生け贄を捧げる教会」とか「この教会が信仰している神様」がおかしいという話をよく耳にするようになった。
なんでも、普通の教会は、少年少女の生け贄を捧げたりしないし、普通の神様は、生け贄を要求したりしないらしい。さらに言えば、僕も含めて、あまりに幼い少年少女の聖歌隊も、ほとんど居ないらしい。
でも、僕にとっては普通だったから、なんの疑念も持たなかった。
だって、大好きな神父様がそれが普通だって、おっしゃっていたから。
神様は、若い体を持った少年少女の生け贄が好きで、4カ月に1回以上、生け贄を捧げなければいけない。そうしないと、大きな悪いことが起きてしまうらしい。
毎回、その生け贄は、聖歌隊になれなかった、いらない子供か、聖歌隊の中でも悪い子が捧げられる。
昔、「僕も捧げられて死んじゃうの?」って聞いたら、このことを教えてくれて、「アルファルド。君は、優秀な良い子だろ?だから、生け贄になんて選ばれないよ。安心して寝なさい」って!
生け贄に選ばれること自体は、光栄なことらしいんだけど、すごく痛くて苦しくて、つらいらしい。だから、僕は、絶対に選ばれたくないし、優秀だからこそ、選ばれない自信だってある!
この生け贄って、できない子や悪い子でも、神様や教会の役に立てるから、素晴らしい事だって思うの。
できない子や悪い子は、役に立てない子たちだから、嫌いだから、最後くらい役に立ってもらわないとって思う。
誰よりも早く起きて、歌の練習をして、神様にお祈りをして、毎日、神様に届くように聖歌を歌い、
将来、良い仕事についたり、神父様になったりするために、聖書や計算などのお勉強をして、
シスターさんと一緒にご飯を作って、掃除をして、
お歌のお稽古をうけて、
年下の子供達の世話を率先して行って、
夜には神父様のお話をしっかり聞く。
そんな、完璧で完全な生活を送っていた。
その理由は、「褒められたかった」「愛してほしかった」それだけ。
両親が居ない僕にとって、神父様やシスターさん、聖歌隊のお兄さんやお姉さんから褒められることが、何よりの生きがいだった。
正直な話、神様の為っていうよりも、「褒められたい」「見てほしい」「愛してほしい」その為に、ずっと努力していた。
その結果、最年少で聖歌隊になったときは、神父様、誰よりも喜んでくれた。「君は、完成作だ」って。
そして、数人の子供が生け贄となり、ほぼ同数の赤ちゃんが教会に来た頃、僕は、最年少では無くなった。
神父様も、年下の子供達の世話で手一杯の様子だった。
いくら、手伝っても、「ありがとう」で終わり。
特段褒められることも無い。
だって、ここは、「教会」だから。
神様は、「愛」を「平等」に与えるものだから、神様に近い神父様達は、全員を「平等に愛する」必要があるらしい。
だから、あんなに喜んでくれたのに、いまでは他の人と、全く同じくらいしか見てくれない。
どれだけ努力しても、手伝っても、歌が上手くなっても、世話をしても、周りと変わらない対応しかされない。
それは、「平等」で素晴らしい事。
でも、何か、心の中でくすぶっているものがあった。
それを言葉にするすべは、当時の僕には無かった。
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アマンドの生前のお話