メモリアルワールドーアマンド編(1)ー
気づけば、闇の中を実態の無いまま、ふよふよと彷徨っていた。真っ暗で、何も見えなくて、不安で…
「暗い」「怖い」「寂しい」その感情だけが、湧き上がってくる。
理由なんて、分からないし、知らない。
でも、それを解決してくれるのが、闇を消してくれる光だとは知っている。
「光」それだけがほしい。
怖いのも、寂しいのも、もう嫌だ。
ずっとそんな暗闇にいた。それは、もう狂ってしまいそうなほどだった。
そんな時だった。
【ようこそ、メモリアルワールドへ】
そう書かれた看板を目にした。
暗闇の中にいるにも関わらずに、それが、看板であること。そしてその文字が見えた。
もう、なんでもいい。暗闇以外の所に行けるなら、寂しくないのなら、どこだって。
そう思い、一歩踏み出すと、周囲は白い光に包まれた。
「光」だという安心感なのか、フッと突然、意識が途絶えた。
気がつくと、周囲は見知らぬ場所だった。まあ、記憶があるのは、暗闇からだから、どこだって、見知らぬ場所になってしまうのだけど…
しかし、周囲のことが気になり、あたりをキョロキョロ見渡す。
見渡す?
「首」が動く。
その瞬間理解する。首がある。目がある。
手を見ると、手のひらも腕も存在する。
近くを見るために、移動する。
浮いてない。ってことは、足もある。
体があるんだ!
魂?だけじゃない!
その感動たるや、言葉にできないほどだった。
僕、生きてる!?
「おや、今回迷い込んだのは、子供かい?」
紳士的な老人が話しかけてきた。
「ねえ!おじいさん。僕、生きてるの?」
そう言おうとしたが、声が出ない。
それを、察しているのかいないのか、老紳士は、話を続ける。
「少年。ここは、メモリアルワールド。死んだ魂が何処にも行けなかった時に辿り着く永遠の場所であるよ」
老人はそう言ってから真っ直ぐ指を指した。
えっ……. 。やっぱり、僕死んだの。やっぱり1人になるのかな……。
不安そうな僕をみて、老紳士は続ける。
「君は、あの彼方へ行きなさい。名前を授かるといい」
確かに、生前?の名前が分からなかった。もしかしたら、最初から、無かったのかもしれない。
だから、納得してしまった。
「良いかい、決して振り向かない事だよ。決して、ね」
振り向いたらどうなるの?
そんな疑問が頭をよぎったときには、すでに老紳士は居なかった。
よそ見をした時に、どこかに行ってしまったのかもしれない。
そう思い込むことにした。
歩いて行けば、見たことも無い不思議な光景が広がっていた。
周囲には、僕みたいな普通の人間、人間では無い人達、様々な人達。
皆が楽しそうに、遊んでいた。
皆が楽しそうに、話していた。
でも、誰も、僕を見てくれない。目が合わない。
沢山の人が居るのに……
嫌だ!
なんで?
どうして?
こんなに人が居るのに、誰も僕を見てくれない。認識してくれない。
そう思うと、暗闇にいたときよりも、強力な不安感と孤独感が襲ってきた。何より、寂しかった。
その負の感情は、あまりにも強く、僕はパニックになり、目的地もなく、走って行った。
ふと、気がつけば、森に入っていた。
幸い、方角的には、老紳士が言っていた方角に間違いは、なさそうだ。
しかし、ここは先ほどとは違う意味で安心できない場所だった。
見たことも無い異形が、闊歩していた。
悪魔、邪悪なものに違いない。
あれが、バケモノとよばれるものだと確信した。
気づかれれば、きっと殺される。
そのような恐怖が、僕を包み込んだ。
自分で自分を守るように、両手で両耳を塞ぎ、目を閉じ、ゆっくりと見つからないように、森を進んだ。
幸い、バケモノに気づかれずに森を抜けると、そこには、巨大な城の巨大な扉があった。
ここに避難したい気持ちはあるものの、こんな巨大な城に勝手に入るなど、許されないことなのではないか、少し悩んでいた。
「クスクス…アナタもココニまよいこンデキタの?」
明らかに異様な声だった。
何しろ、未だに手で耳を覆っているにもかかわらず、耳元で声が聞こえた。
恐怖で体が硬直した。
もう、何度目の恐怖か分からないが、「異様な恐怖」という意味では、最大級の恐怖だった。
硬直している僕に、異様な声は続ける。
「フリカエらないデ」
そうだ。きっと、振り返ってはいけない。見てはいけないんだ。
「もどルならイマノうち。さァ、ドウするカシラ?」
もどりたくても、戻れない。そんな気がするんだ。
「フフッ…だいじョウブよ、アナタはー」
異様な声は突如として途切れる。
おそらく居なくなったのだと、そう思う。
しかし、硬直した体と思考は、なかなか回復しない。
「……………………………。….ェ…….キミ……….イキ………. 。ダイジョウブ?」
うっすら聞こえてくる声と、揺さぶられている体で、意識が戻ってくる。
「やっと、お目覚めかい?キミ。」
先ほどとは違う声だ。
声の主は、意識が戻ったことに気づいて、安心させるためか、背中をさすってくれている。
知らない声は、怖いものの、先ほどよりは怖くない。
むしろ、この異様な空間で、認識して、心配してくれる声に、うれしさすら覚える。
「毎度、あれには困ったものだね」
目の前の扉は、自然と開かれる。
「悪魔は去った。安心して。ここから先は楽園であり天国。」
背中をさすっていた手が、一瞬離れ、背中を軽く押される。
それだけで、体を委ねていた僕は、体制を崩し、その中に入ってしまった。
入ると同時に、ゆっくりと扉が閉まっていく。
「そして……じ」
扉は完全に閉まり、それ以上の言葉を聞き取ることができなかった。
世界観共有型企画【メモリアルワールド】
【公式】メモリアルワールド(@Memorial_World_)さん / X (twitter.com)
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