羅小黒戦記(ロシャオヘイ戦記)解説

羅小黒戦記とは?

中国を発祥とするアニメ映画で、2019年中国で50億円の興行収入をあげ、2020年日本でも日本語版が公開された。本編はWEB上で公開されたFlashアニメーションで、2011年から現在まで28話まで公開されている。

以下、映画を見ていて自分が疑問に思った部分を時系列順に解説していきます。

プロローグ

小黒(シャオヘイ)が人間の開発により故郷を奪われます。動物たちが逃げていく中、ひとり向かっていく小黒。小黒が普通の動物ではないことが窺えます。穴に落ちた小黒は瞬時にゴミ捨て場に移動しますが、これは小黒の空間系能力のひとつテレポートです。小黒はこのとき6歳で、能力を使いこなすことはできませんが、窮地に陥ると無自覚に能力を発動するようです。

チャプター1 -風息(フーシー)との出会い-

故郷を追われた小黒は新たな住処を求めて彷徨います。小さい黒い塊は嘿咻(ヘイシュウ)といって、小黒のしっぽから発生する生命体で、小黒と嘿咻は場所を入れ替わることが出来ます。人間に追われた小黒は大型化して立ち向かいますが、そこで助けてくれたのが風息でした。

※このとき小黒を襲った一言も言葉を発しない人間に少し違和感を持ちませんか? 後に出てくる風息の仲間に「人を操作する」能力を持った阿赫(アクウ)というキャラクターが登場します。つまり、一連の流れは風息の仕込みだったということです。風息一派が小黒を探す際に、植物・動物・精霊を駆使して探索します。森の開発により小黒が空間系の能力を発動させたのを、いずれかの探索能力でキャッチ。探し当てて、仲間に引き込むために一芝居打ったという訳です。

チャプター2 -新しい故郷-

風息に連れられ移動した先で、住処と仲間ができます。

・虚淮(シューファイ):氷を操る。実力者。

・洛竹(ロジュ):木を操る。歓迎会を提案。

・天虎(テンフー):火を操る。みんなの弟分。

歓迎会から一夜明けた後、最強の執行人である無限(ムゲン)が風息を捕らえるため強襲を仕掛けます。無限ひとりに全員で立ち向かいますが、無限が相手では逃げるしかなく、ゲートを使ってなんとか無限から逃れますが、小黒は取り残されてしまいます。

・無限(ムゲン):最強の執行人で人間だが、本人曰く今はどちらかというと妖精に近いらしい。金属を操る金属性の能力と、自らの霊域に外部の物(生命は不可)を取り込める空間系の己界の能力を持つ。地面に丸い穴が空いていたのはこの己界の能力で、地下鉄を追う際に岩壁に丸い穴を空けたのもこの能力。

※無限が最初に戦っていたのは涅帕(ネパ)と呼ばれる食人族の豹で、食人族は人間からしか栄養を摂取できません。館の規則で悪人を狩ることは許されていますが、それ以外を狩ることは許されていません。その規則を破ったが為に無限に捕縛されました。

※この後、小黒の衣装が変わっています。出立から察するに、風息もしくは洛竹が与えたものでしょう。

チャプター3 -無限との船旅-

小黒と無限が取り残されたのは絶海の孤島。島から脱出するため、無限はイカダを作り、小黒は無理やり無限へ連れられ海へ。途中、嵐に遭い、その中で小黒は無意識下で領界の能力を発動させます。領界の能力は霊域を外部に解放できるもので、非常に珍しく、強力なものです。その能力を調べるため、無限は小黒を自らの霊域に呼び込み、能力を調べました。霊域は、全ての生き物が持つ生命と能力の源で、通常、バスケットボール程度のサイズしかありません。無限の霊域には家が収まっていましたが、周囲の白い何もない空間も彼の霊域です。正確な大きさには言及されていませんが、サッカーコート以上、街が収まるサイズ以下程度だと思われます。その大きさから無限の実力が窺えます。また、霊域の中では、空間の主人が全てを支配し、瞬間移動や念力、読心など様々なことが可能となります。このとき、小黒には金属を操る金属性があることが分かりましたが、小黒が幼かったためか、空間系の能力についてはよく分かりませんでした。

※途中、無限が小黒に謝罪し修行をつけてくれたのは、捕縛対象と小黒を勘違いしてしまったため。霊域に小黒を入れたことで、心を読み、小黒が風息と出会ったばかりで、彼らの仲間ではないことが分かりました。

※魚の群れがイカダに飛び跳ねてきたのは、大型の捕食者から逃れるため。その大型の捕食者は海面から姿を一部露わにしますが、毛が生えたその姿から、精霊の一種、もしくは妖怪の類だと窺えます。

※嵐の中見た龍は、本物の龍ではなく、後に登場する画虎(ガコ)の能力ではないかと思われます。この時点で画虎は能力を奪われていないので、何らかの用事があって移動していたのかもしれません。

チャプター4 -陸地-

小黒と無限が上陸したのは福建省。場所については違う方が考察しているので、そちらを参照してください。海岸から館がある龍遊(リュウユウ)までは休憩なしで歩き続けて約7日の距離です。道中、バイクや地下鉄に乗るので、実際、1週間程度はふたりで旅をしたことでしょう。小黒は故郷を奪われた経験から、人間を嫌っていますが、旅をする中で徐々に人間を知り、心を開いていく様子が描写されています。中でも、電車で少女を助けた後、「ありがとう」とお礼を言われてぱっと光が差すシーンは、小黒の心の中にも光が差したことを表しているのではないでしょうか。この一連の旅がなければ、小黒は人間嫌いのままであり、小黒は自ら選択して風息の仲間になっていたかもしれません。

※上陸した店で肉しか頼まなかったのは、海の旅で海鮮には飽きていたため。

※無限は最強の執行人ですが、料理は壊滅的なようです。劇場版時点で437歳。車の免許はなく、原チャの免許は持っているようです。

※中国のヘルメット義務化は2020年6月1日からで、映画が公開された2019年には着用義務はありません。

※途中、館の他の執行人が登場します。

・鳩老(キュウ爺):鑑定能力がある。

・若水(シュイ):狐の妖精。怪力。

・花輪:机やお茶を出し入れした空間系能力の妖精。

・兆岳(ジャオユエ):赤鬼。

・天介(ティエンジエ):青い肌の妖精。

このとき、無限はあえてゆっくりと移動して小黒に世界を見せてやっていることが分かりました。この時点では風息の強奪の能力は明かされておらず、そこまで危険視してはいなかった為でしょう。

一方、風息は、無限から小黒を奪還する為、能力集めを行っています。強奪はもっとも強力な能力で、霊力と能力の両方を奪える為、使えば使うほどに強くなっていきます。今まで使っていなかったのは、人間を恨んではいるものの、妖精には手を出したくなかった為でしょう。しかしながら、無限から隠れ家である島と奥の手である小黒を奪われたことから、目的のために手段を選ばなくなったようです。風息が最初に会いに行った閔(ミン)先生は、霊音の能力を持っており、館の規則に従っているものの、館に属してはいません。風息は、協力を要請しましたが断られた為、能力を強奪しました。無限にも先生と呼ばれていることから、実力者であると思われます。にも関わらず一方的に能力を奪われたのは、争った形跡が少ないことから、争いを好まない性格だからだと思われます。画虎も無限と戦う為、画霊の能力奪われました。また、描写は少ししかありませんが、霊爆という能力もこのとき風息は獲得しています。

※風息が強奪した能力は3つ。霊音・画霊・霊爆。能力だけでなく霊力も強奪しているので、基礎的な強さも向上しています。

チャプター5 -地下鉄-

小黒奪還のため、フーシー一派が仕掛けてきます。

・阿赫(アクウ):人を操れる。

・叶子(イエク):土。打たれ強い。

小黒がホームから電車に強制瞬間移動させられますが、先に洛竹が小黒にマークしたと言っていたことから、これも島で一泊した間に仕掛けられた細工のひとつでしょう。近距離でないと発動できなかった為、無限に追われる形になってしまいました。強奪によって強化された風息の霊力と、想定外の霊音、そして人質にされた地下鉄民を助ける為、ここで小黒は再び風息の手へ。また、霊音で無限の耳から血が出る描写があり、無限がはじめてダメージを受けたのがここです。霊音は非常に強力な能力だと言えるでしょう。

・潘靖(パンジン):妖精館、龍遊支部の館長。情報を伝達する伝音の能力を持つ。

・冠萱(カンセン):館長の側に仕える。能力は心霊系の洗脳と生霊系の念磁。電磁波と記憶を操ることができるため緊急時の事後処理を担当している。

・羽夕(ユシ):姿を消せる。館長のボディーガード。

・逸風(イフー):回復能力。

チャプター6 -強奪-

旅の中で全ての人間が悪人ではないと知った小黒。風息のやり方に疑問を呈してしまったが為、また、封鎖された龍遊という追い詰められた状況で、風息は小黒の領界を強奪しました。通常の能力は奪われても修行すれば戻りますが、空間系の能力は奪われると霊域が欠けてしまう為、死に至ります。無限が駆けつけたときには一歩遅く、既に領界は奪われてしまいました。風息一派は、分散して、風息が領界を発動する時間を稼ぎます。無限は、風息を捕らえることよりも、小黒をまずは奪還することを選択しました。

※風息の回想で、龍遊が、風息、虚淮、洛竹、天虎の故郷である森が、人間によって開発された場所だと分かります。また、回想の中で天虎の小さかった姿があり、天虎は小さい頃から風息らと共に暮らしてきたのだと判明します。

・天虎(テンフー):後退しつつ執行人と戦う。

・洛竹(ロジュ):執行人と互角に戦う。

・虚淮(シューファイ):複数の執行人を氷漬けに。

それぞれの実力差が描写されています。無限が登場した際、小黒が預けられたのが虚淮であったことからも、実力者であることが分かりますが、後に登場した哪吒に「雑魚」と瞬殺されてしまっていることから、哪吒が一線を画す執行人であり、本部からの救援が”彼”ひとりであったことにも納得できます。

・哪吒(ナタ):総本部から龍游へ派遣された執行人。実力は折り紙付き。個性的な髪型がトレードマーク。

・大爽(ソウ):避難担当。人間。能力は空間系の「転送」。位置情報で他者を一度に任意の場所に転送できる(ただし霊力が低い生命体のみ)。

チャプター7 -無限vs風息-

風息は木属性の能力だけでなく、強奪した霊音などの能力も使いますが、それでも無限の方が強いようです。領界内に移動してからは、風息が有利になると思われましたが、案外五分に戦えてしまう無限。無限の恐ろしいまでの強さもさることながら、領界の能力が馴染むのに少し時間がかかるようで、途中、風息ははっとした様子を見せた後コツを掴んだようで、徐々に風息が押しはじめます。もうダメだと思われたとき、小黒が復活し、無限を助けました。無限の前に突如現れたのは、嘿咻との場所入れ替わり能力です。無限は虚淮から小黒を奪還した際に嘿咻を胸に入れていました。

・小黒(シャオヘイ):確認されている中ではふたりしかいない、霊域をふたつ持つ妖精。ひとつの霊域は領界が奪われた為、欠けてしまったが、もうひとつ霊域があったため生存できた。空間系の能力はひとりひとつまでしか持てないが、小黒には領界とテレポートのふたつがあり、序盤にテレポートしたのは、霊域がふたつあることの伏線。

・玄離(ゲンリ):映画内では名前のみ登場。特異体質でふたつの霊域を持ち、「火」と「氷」という相反する性質を操ることができたと伝えられる。

小黒が現れた後は、領界は風息と小黒、両者の持ち物であるため、支配者がふたりになりました。これに無限も加勢するため、風息は破れてしまいます。龍遊は風息が追われた故郷です。故郷を取り戻すことが叶わなかった風息は自らが木になることで、仲間らと共に捕らえられることを拒み、仲間を捨てて故郷に居続けることを選択しました。

エピローグ

羅小黒戦記-ぼくが選ぶ未来-妖精のために生きるか、妖精とともに生きるか、小黒は後者を選びました。そして、自分の居場所を求め続けた風息と小黒。風息は最後まで故郷、龍遊を求め、小黒は最後はどこで生きるかではなく、誰と生きるかを選択します。「師匠」という言葉には、小黒が何を選択したのかが込められています。

※エンドロールで登場する人たちは、本編のFlashアニメーションに登場するキャラクターです。

※映画内で登場する空間系の能力者は、小黒(領界とテレポート)、無限(己界)、花輪(お茶セットを出し入れ)、紫羅蘭(花の妖精。花の出し入れ)、大爽(龍遊の人間を転送して避難させた)と、そこそこ登場しているので、空間系自体はSSRという訳ではなさそうです。

※映画内で登場する能力がある人間は、無限と大爽のふたり。館にも何人か人間はいるそうです。普通の人間も数十年修行すれば小さな氷を作る程度にはなれるとWEB版本編で言及されています。人間でも才能があれば無限のように強くなることも可能なようです。

以上、2回映画を見ただけの人間が調べながらも大部分は想像を膨らませて書きました。間違っている部分がありましたら修正しますので教えていただけると幸いです。興業収入がとても良かったので、続編には期待できますが、制作チームは50名程度の少数精鋭なようで、製作には時間がかかりそうです。原作者であるMTJJ氏はWeb版アニメを月1回更新することを目標にしているようです。

※2021.07.15現在。映画館には5回ほど足を運び、ブルーレイも手に入れました。感無量です。気になる点を少し修正加筆しました。

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