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platinousmoon
月夜の寝ぐせ【毎週ショートショートnote】
はっと目が覚めて、それで寝落ちしていたことに気がついた。
固いデスクの感触と、開きっぱなしのパソコンの画面。……一時間ほど意識を失っていたらしい。
「お、起きた。お前、たまには家に帰って休めよ。もう一週間は外に出てないだろ」
研究室の先輩が声をかけてきた。
「……じゃあ、少し散歩してきます」
「え、その髪の毛でか? お前、すごい寝ぐせだぞ。少しは整えて――」
「夜ですし、平気ですよ」
「いや、今夜は満月――」
先輩の声を最後まで聞かずに外へ出る。
時間が惜しい。こうしている間にも、科学技術は進化し、世界は進歩を続けている。早く研究者として名を上げなければ――
外は確かに明るい月夜だった。
でも、構わない。気分転換にはぴったりだ。何しろ――
夜空の満月を見上げる。
明るく輝く丸い輪郭、その上部に、黒々と跳ねた髪の毛のようなものが見える。
……月面に建設された、宇宙工学の最先端の研究センターだ。
いつか必ず、あそこへ行く。改めてそう決意する。