唐揚げ死なず【毎週ショートショートnote】
死のうと思っていた。
アパートの部屋に縄を吊るし、所持品を整理してから決行しよう、と考えていたところで――彼女と出逢った。
「すみません、唐揚げをたくさん作ったんですけど……良かったら、もらってくれませんか?」
「……い、いただいて、いいんですか?」
「ええ、もちろん」
この時の彼女の満面の笑みを、生涯忘れることはないだろう。
夢に破れて情熱を喪い、死ぬことばかり考えていた僕にとって――その裏表のない隣人の笑顔は、僕に「生」を思い出させてくれた。
「ど……どうしたんですか?」
「あ、ええと……すいません」
気付いたら、涙が頬を伝っていた。
「ありがたくて嬉しくて、つい」
「そんな大げさな……ふふっ」
彼女は驚きこそしたが、引かずに笑ってくれた。
「あの……また作って、持ってきますね」
「……いいんですか?」
こうして、僕には死ねない理由ができた。
週に一度、作った唐揚げを食べてくれる、彼女の笑顔だ。
……もう一度目指してみるか。
プロ唐揚げ士。