![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/90255366/rectangle_large_type_2_b98a14a0ebbaac6496e7840d69ffdae4.png?width=1200)
Photo by
momorisuu
音声燻製【毎週ショートショートnote】
「何それ、レコーダー? 録音してんの? なんだよ、やめろよー」
少年特有のキンキンした声。
中学で離れることになった彼の記憶の中の姿は、いたずら好きの生意気盛り、でもカッコいいキラキラしたままで止まっている。
思い出の姿は変えられないけど。
私は、彼の声を録音したボイスレコーダーを「音声燻製機」に投入してみる。
「何それ、レコーダー?」
じっくり燻してから再生すると、声変わりを経て成長したかのような低い声が流れ出した。
「録音してるのか。なら、いい声で録ってくれよ」
声が大人びて渋くなっただけでなく、どうやら録音内容も、包容力が増したようだ。
まるでASMRだ。心地よい声が、優しい言葉が、耳に沁みる――
いや。
自分に嘘をつくのは、やめよう。
録音された声だけが成長しても、本物の彼がいなければ、やっぱり、満たされない。
「声なんて録音してどうするのさ、母さん」
私の亡き息子への想いは、どこにも行き場のないまま、 胸の内で燻り続けている。
※本作品はamazon kindleで出版される410字の毎週ショートショート~一周年記念~ へ掲載される事についてたらはかにさんと合意済です。