モンブラン失言【毎週ショートショート】
「ほら、お前の好きなモンブランだぞ」
私が凹んでいるとき、一緒に暮らす恋人は、いつもモンブランを買ってくる。
「……わざわざ買ってこなくていいのに」
あ、この言い方はよくなかった。
そう気づいたところで、一度放たれた言葉は戻せない。
「なんだよ。元気出してほしいから、好物がいいと思ったのに」
途端に不機嫌になる彼。
仕方ない。ちゃんと説明しないと。
「あのさ、私が前に好きだって言ったのは、さ。市販のじゃなくて、……あの日、あなたが作ってくれたモンブランなんだよ?」
「あ……」
仕事で大失敗して、ショックで寝込んでしまったあの日。
「甘いもの食べたら元気出るかと思って……」と差し出された、だいぶ崩れかけたモンブランが、何よりも美味しかったんだ。
「そっか……俺、勘違いしてたわ。よし、じゃあ、明日久しぶりに作ってやるよ」
「ありがとう、嬉しい」
「へへっ」
「やっぱりモンブランも恋人も、大事なのは中身だね。たとえ見た目がダメダメでも」
「おい」