この中にお殿様はいらっしゃいますか?【毎週ショートショートnote】
「ではお殿様。この虎を捕らえて見せよと仰せならば、まずはこの屏風から虎を出していただきたい」
「……成る程。流石は一休、機知に富んだ返答であることよ」
家老は考えていた。
自らの主君が、わざわざ一休を呼び、あんな難題を与えた意味を。
殿はあの後、病に倒れ、瞬く間にこの世を去ってしまった。
今思えばーーあれは自らの死期を察した殿が、残る者たちに何かを伝えようとしての行動だったのではないか?
家老は、主君の三人の息子たちを集めた。
どの子も聡明で人の上に立つ素質はあるが、大人しく控えめな性格だ。
しかしこの戦乱の世では、家臣を率いて他国と競り合う、勇猛さ力強さも必要だ。
この三人の誰かには、そうした「殿」にふさわしい器が備わっているのかもしれぬ。しかしそれは、内に秘めたままでは意味がない。
まさに、屏風の中の虎だ。
誰かが外へと引き出さなくてはならぬ。
「お三方、ご自身の胸に手を当ててくだされ……この中に、お殿様はいらっしゃいますか?」
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