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サラダバス【毎週ショートショートnote】

恋人が浮気していた。
頬をひっぱたいたその足で、顔馴染みのバーへ。今日はとことん行こうと決め、ハイペースで飲み続ける。

「……お客様」
「なあに、マスター」
「これ、あちらの方からです」

さっと差し出されたのは、カクテルグラス……ではなく、小海老のカクテルサラダ。
示された方向に目を向けると、落ち着いた渋い雰囲気を漂わせた男性が、口元に余裕のある笑みを浮かべて、こちらを見ていた。

「……あたし、いま、飲みたい気分なんだけど?」
「差し出がましい真似をして失礼。ずいぶん飲んでいるようだから、心配でね。元気が出ないときは、野菜を摂るのが一番ですよ」

佇まいと同様に渋く、かつ滑らかに響く低音が耳に心地好いのは、傷心のせい?
でも、テノールで誰彼構わず甘い言葉を囁くような男より、ずっといいかも。

「……お客様」
「なあに、マスター」
「マスターじゃないです。あの、ファミレスのドリンクバーとサラダバーで、そんなに盛り上がらないでもらえますか?」



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