![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/107544190/rectangle_large_type_2_0fcc98f566a91504658f2d5ad50e61ea.png?width=1200)
Photo by
catherine_0
名を自動転売鬼【毎週ショートショートnote】
稼ぎが少しでも悪くなると、あいつはさっさと見切りをつけ、私に新しい仕事場と名前を充てがった。
「はじめまして、ミキでーす」
「ルナって言うの、よろしくね」
様々な店の女とそのポジションを、右から左へ流れるように買い取っては売り飛ばしていたあいつは、良く言えば歓楽街を半ば自動的に更新し続け、新陳代謝をもたらす「なくてはならない存在」であり、悪く言えば――血も涙もない、というよりは、血でも涙でも何だって捌いて儲けの道具にする、金の亡者、転売の鬼だった。
一度、その鬼に興味本位で尋ねてみたことがあった。
「あんた自身はなんて名前なの?」
「とっくに売ったよ。この街じゃ、邪魔なだけだ」
確かにその通りだと思った。
だから私は、仮初の名前を更新し続け、名前も知らぬ男達を相手し続け、名前のない金を稼ぎ続けて、いつか最初に売られた本名を買い戻し、この街を出ていく。そう、決めている。
そのときには――
この鬼の本名も、一緒に買い取れるだろうか。