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最後のマスカラ【毎週ショートショートnote】

新入社員の頃から、彼女は強気だった。

「先輩、私のことは新人と思わないでいいですから! どんな仕事もこなしますから!」

ぱっちりとした瞳で真っ直ぐ見据えられると、教育係なのに僕は思わずたじろいでしまう。

「先輩、この案件、私に任せてください! 必ず成功させてみせますから!」

常に強気な彼女の舵を取るのはなかなか骨が折れたが、そんな真面目でひた向きな彼女と一緒にいるうち、僕はすっかり彼女に惹かれていた。

だから、彼女の誕生日に、交際を申し込んだ。
プレゼントに、その魅力的な瞳を彩るマスカラを選んで。

「ありがとうございます、そんな風に想っていただけたなんて……嬉しいです。仕事人間の私ですが、先輩の気持ちに応えられるよう、努力しますから!」

――君らしい返答だね。でも、もう『先輩』も敬語も、最後にしてほしいな。これからは、恋人どうしだから。
難しい? どう、できるかな?

「で……できるから」

彼女は頬を赤らめながら、もごもごと呟いた。

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