着の身着のままゲーム機【毎週ショートショートnote】

「なあ、相棒」
「なんだよ」
「もう、装備がボロボロだぞ。その鎧なんて、穴が開いちまってるじゃないか。一度、街まで引き返したほうがいいんじゃないか？」
「……いや、せっかくここまで進んできたんだ。まだ進もう」
装備のスペアは持っていない。今までよりも警戒しつつ、道なき道を行く。

秘密の隠し通路を潜り抜け、洞窟内を流れる水脈をたどり、迷いの森を踏み越えていくと、
「やった、旅の宿屋を発見したぞ！」
「これでセーブできるな。続きは、また明日ここからだね」

実際には――
破れた金網を潜り抜け、農業用水路の縁をたどり、荒れた草薮を踏み越えていくと、放置された廃車を発見した――それだけのことだ。だけど、僕たちにとっては、未知の世界の山あり谷ありの冒険だ。
空想を共有できる仲間さえいれば、現実はどんなＶＲよりも没入できる、リアルな異世界に早変わりする。

帰ったら絶対叱られる泥だらけの服で笑い合う相棒こそ、僕にとって世界一のゲーム機ってことさ。