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深淵をのぞくとき、

もうすぐ30になる夫が、自分が生まれるより前に作られた原付25,000円を黒人のディーラーから買ったのは先週の日曜のことだ。
小学生女子が手紙を入れる秘密の引き出しの鍵みたいな、小さくてやたら簡素なキーを受け取ってニマニマと嬉しそうだった。

「今ウインカーがつかなくて焦った」とLINEが来たのはその2日後。
「帰ろうとしたらエンジンがかからなくてヒヤッとした」と言ったのはその5日後。
その度に「ああ可愛いなァと思うんだ」と笑う。

アホなのかな、と思う。

そんな無駄に肝を冷やすような思い、わたしなら絶対にしたくない。大体公道で不測の事態になったら即事故に繋がるし、他人様に迷惑が掛かる。
そんなふうに口酸っぱく伝えてもどこ吹く風で通じない夫は、どこかズレているんだと思う。



5年前、「あのコは不倫をしているらしい」と噂になった友人がいた。

こちゃこちゃっと狭い界隈での不倫だったので、男女どちらとも関わる機会があった。相手の男性は、顔の造作はたしかにハンサム!なのだが、なんだかいつも斜に構えていて、繰り出すユーモアもどこか笑えない。常に周りが敵か味方か心の奥で見定めているような、どことなく寂しげなひとだった。

先日共通の友人から、その不倫が今も現在進行形で続いている、と聞いて驚いた。
既に奥様にもバレているらしい。彼女だってもう、40の足音が聞こえる年齢だろう。それでもスーツケースを抱えて海を越え、男の赴任先に押しかけたりしているのだという。

アツい。
でもやっぱり、アホなのかな、と思う。

不倫を継続するオンナというのは得てして自己肯定感が低い、と思っている。見ていてしんどくなる。なんだかんだで結局雑に扱われていることに気づけよ。もっと怒れよ!人生そんなところで終わるなよォ~!と肩をブォンブォン揺らしたくなる。



でも。そんなふうに全て知ったような顔をしていとも簡単にぶった切り、それ以上の領域に思いを馳せず目を閉じて、思考停止を決め込む自分のほうこそ、人生バッチリ損してるのかもしれない。

夫や彼女は、わたしには手が届かず想像すらできない悦びの日々を、思いっきり満喫しているのだろう。。

深淵を覗くとき、深淵もまたこちらを覗いているのだ。

ってそういう意味だっけ、違うっけ。
そんな深夜から早朝への、多様性の話。

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