【一分小説】拝啓、夏の地獄より

「ちゃう、さっきからちゃうって言うてるやん。」

夕暮れの、酷く赤い空。逆光。
アスファルトの暑さが手のひらに滲む。
めり込んだ砂利やごみがかすかに痛みをもたらしてくることで、現実を認知する。
どこからか、子どもの悲鳴が聞こえてくる。多分、親に怒られてヒスってる。

「別に責めてるわけじゃないて。こっちもさっきからそう言うとる。好きとか愛してるとかはもういらん。必要かどうか聞いてんねん。なあ」

君の真っ白な手が、夕暮れに染まっていた。
その手は、さっきまで喉から手が出るほど欲しいと思っていた手だった。
何で俺なんかにその手を差し伸べているんだろう。尻もちをついているから?んなわけあらへんやろ。

「待って、思考がまとまらへん。」
「そんなこと聞いてへんわ。好きなんやろ?ちょっと助けてや。」
「ちょっとってなんやねん。信じられへん。」
「でもだめって顔してへんよ。」

はあ、と泣きそうになりながら手をつかむ。
まるでハーメルンの笛吹きってやつや。行くしかない。ついていくしかない。
でも、せめて。せめて、

「俺のことが必要って言ってくれや。」

……楽しそうに笑う君の口元は、ただただにこやかにほほ笑むだけだった。


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