「月がきれいですね(/ω\)」テレ東ドラマシナリオ
<登場人物>
少年
少女
カップルの彼
カップルの彼女
おじさん
いぬ
オタク
オタクの友達
通りすがりの女性
夫
妻
通行人
高校生ぐらいの少年が息を切らせながら走っている。走りながら何かをぶつぶつ呟いている。
少年「こんなとき、こんなとき、何て言えばいいんだろう。こういうの言い表す言葉ってあったような気がするんだけど…思い出せない!」
立ち止まって息を整え、頭をかきむしる。
少年「ああ~!もう!気持ち悪い~!!」
道を連れだって歩いているカップル。彼女はショートカット。
不機嫌な彼は信号待ちにカバンをどん!とガードレールに乗せる。彼女もいらいらしてる。
彼女「いいじゃん、そんなに怒らなくても」
彼 「何が」
彼女「いいよ、伸ばすよ。勝手に切ったのが気に入らないんでしょ」
彼、ふくれている彼女の横顔に言い返す。
彼 「嫌がらせなんだ、ぜったい」
彼女「は?何が」
彼 「けんかした」
彼女「だから何」
ショートカットの彼女、大げさに真似をする。
「うわ~はるかちゃん綺麗~長い髪って男の夢なんだよね~。(真似をやめる)鼻の下伸ばしちゃって、なに」
空から小さな欠片がひとひら降ってくる。雪のようだ。
彼 「ごめん(キレ気味に)」
彼女「(無言)」
彼 「だからごめんて!」
まだ少しふくれっつらをしている彼女の上にも雪が落ちる。
彼女「いいよ。伸ばすよ」
彼 「いいって」
彼は彼女の顔を見ずどこか別方向に向かって、やけになったように叫ぶ。
彼 「髪が長けりゃいいってわけじゃないから!!」
走っている少年、今のショートカットのカップルとすれ違う。(一瞬、スローになる)
はあ、はあ、と息をつく。息が白い。
少年「誰か…誰か!誰か…」
公園の真ん中で叫ぶ。
少年「誰か…ご存じの方いませんかぁ~!」
(公園の向かいにある家の中)
おばさん「このまえお散歩で会長さんに会ったんだけど、飼い犬のコリーくんが本っ当にお利口なの。もうね、わんとも鳴かないの!ちょっときゅん…て言うぐらい。あのいぬは賢い!」
おじさん「それ…どこかの犬をディスってるよな。明らかに」
飼い犬「わん!」
おじさん、リードを持ってくる。
飼い犬「わんわんわん!」
おじさん「よしよし、賢くなくたっていいもんなーおまえは」
おばさん「まぁた甘やかしてーおとうさんはー」
おじさん「散歩行ってきまーす」
飼い犬、おじさんのサンダルを拾ってくる。
いぬ「わん!」
おじさん「(スニーカーを履きながら)ばっかだなぁ。今の季節にこれいらないんだよ。よしよしいいこだ、よーしよしよし」
お父さんと犬の上に、ひとひらの雪のかけらのようなものが降りかかる。
(公園)
さっきのカップルと走っていた少年が話をしている。
カップルの彼女「それであなたは、その気持ちを表すことばをさがして走ってるってわけ?」
少年「誰か、知ってる人いないかなって(はあはあ)。知る限りの人に聞いてみたんですけど(はあはあ)」
カップルの彼「いまいち理解できない。そもそも、なんでそんなの探すことになったの」
少年「ぼく、図書委員の友達がいて…」
(図書館のシーンに切り替わる)
少女は本棚から一冊の本を取って少年に差し出す。
少年「くさ…まくら?」
少女「これ、知ってる?」
少年「知らないけど…なつめ…そうせき…あっ。これ有名な人だよね?お札とかになってる」
少女はかまわず、歌うように読み上げる。
少女「『知に働けば角が立つ,情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ、とかくこの世は住みにくい』」
うっとりした目で少年の方を向き直る。目がキラキラ光って顔が近い。
「ねえすごくない?これ、歌みたいじゃない?」
(公園)
カップルの彼「草枕は確かにいい作品だよね」
カップルの彼女「あんた知ってんの?」
カップルの彼「そりゃまあ…草枕ぐらい読んでないと」
少年「僕は正直、本の内容とかどうでもよくて、なんとか気持ちを伝えれないかなって…それでネットで探してて、告白するのに言えばいいっていう画期的なセリフを見つけたんです。月がきれいですね、っていうんですよ」
彼「へー!いいね!それ知ってる!」
彼女「何それ」
少年「それが、告白のしるしなんです!」
彼女「なんで」
少年「僕だってわかりませんよ!でも夏目漱石がそう言ってたらしいんです。その…気持ちを込めた言葉なんですよ。奥ゆかしく気持ちを伝えるんです。夏目漱石ですよ?彼女なら絶対にわかってくれる!そう思ってやってみたんです」
(図書館で)
少年「月がきれいですね」
返事がない。
ちらっと顔をうかがって、もう一度繰り返す。
少年「月がきれいですね!」
少女「それ、もう聞いた」
少年「月がきれいですね!!」
少女、ため息をつく。
カバンから文庫本を取り出して少年に渡す。
少女「これどうぞ」
スタスタと歩き去る。少年、文庫本の表紙を見る。
少年「三四郎…」
付箋が貼ってある。開いてゆっくり読み上げる。
少年「『あなたはよっぽど度胸の…?』」
少年の背後には白っぽい月が浮かんでいる。
少年「『度胸のないかたですね』ー!?」
月、少年の叫び声に合わせてオーバーラップ。
(公園)
公園でやるアイドルイベント のポスターがオーバーラップ。
オタク、公園のベンチで大泣きに泣いてる。隣で友人が慰めている。
オタクの友達「もう…仕方ないだろ?そーゆーことあるって!」
オタク「だってだって…こんなのあるわけないんだ!はまゆちゃんは…はまゆちゃんはぁ!男と付き合ったりしないんだ!」
オタク、ポスターを思いっきり破る。
近くを通りかかった女性がとがめる。
女性「ちょっとあなた!」
オタクの友達「勘弁してやってくださいよ、昨日ネットのトレンドでこの子の熱愛が出ちゃってさー」
女性「あーあー(じろじろ見る)出てましたね」
オタク「出てたなんていうなー!」
雪のかけらのようなものが降りかかる。オタク、手の中にある敗れたポスターを眺める。写真の中からアイドルは笑顔で微笑んでいる。
オタク「ひっくひっく…えぐえぐ…」
オタク、ポケットからそっとテープを出して、ポスターの破れた部分を修復しはじめる。
(公園)
カップル・犬をつれたおじさん・少年が話している。
おじさん「撃沈か。まあ若い時はそんなもんだ」
カップルの彼女「かわいそう」
カップルの彼「まあそれは…あれだ。いくら日本人の奥ゆかしさとはいってもだ、やっぱり付け焼刃じゃ駄目ってことだ。それに女性は曖昧な言葉よりはっきりとだな、そのう…(彼女が横からにらんでいる)言う時は言わなきゃダメ!ってことだ」
カップルの彼女「言わなきゃ伝わらない」
少年「何とかこの気持ちを伝えたい。ぼく探しました。探しまくりました。その、ことば!彼女が求めてることば、はっきりしたそのものズバリって言葉は何なのか。彼女の好みの本を読んで、傾向と対策を掴もうと思って…すると、途中で奇妙なことに気が付いたんです」
(図書館のシーン)
少年は本を見ながら眉を寄せる
「ことばが…ない?」
次々に本から本を開く。どれにも、奇妙な二文字の空白がある。
カップルの彼女「ネットで聞いてみりゃいいじゃん」
少年「だめなんです。消えてるんです。知ってるって人もいましたけど、文字に…残せないんです。打ってるっていうけど、だれにも見えないんです」
おじさん、腕組みする。いぬが見上げてしっぽを振っている。
おじさん「でもさー気持ちなんて人それぞれだから、彼女とあんたのその…何だろうね、あーほんと出てこないな、気持ちを表すやり方をさ、見つけないと」
少年「この世界、今何かがおかしいんです。何かが欠けてるんです。それは、それは…ネットを探しても、どんなに拡散してもらっても、どうしても、どうしても見つからないんです!」
おじさん「お…おう。ちょっとよくわかんねえけど」
カップルの彼「要するにデジタルや文字の世界から消えてるってことだな。月はきれいですねが使えないとなると…」
カップルの彼女「でどうするの」
いぬ「わん!」
(公園の向かいのレストラン)
四十代ぐらいの女性が座っている。
時計を眺め、ため息をついて肩を落とす。
立ち上がろうとした時、あわただしく夫が入ってくる。
夫「ごめんごめん、遅れちゃって。今日が結婚記念日だって思わず忘れそうになっちゃった」
妻「…だよね」
夫「え?なに?」
妻「いっつもそうだよね」
夫「怒ってるの?」
妻「いつも遅れて来るの」
夫「怒られる筋合いないよ。ここだって予約したのは…おれだもん」
妻「義務みたいにしてもらっても嬉しくないから!」
夫「義務だなんて誰も言ってないじゃん」
妻「今日…もう言おうと思ってたの。あたしたち一緒にいる意味ないよ」
夫「はは…なに?」
妻「離婚しましょ、ってこと」
レストランの中なのに雪のようなものが降ってくる。
今度は落ちて来ずに、二人の真上の空中で消える。
妻「ずっと考えてたの。ずっと、ずーっと考えてた。それで今日、あなたが時間通りに来たらこれまで通りに過ごそうって決めたの」
夫「今日だって平日じゃない。わざわざ平日のこの時間に予約取って、頭下げて残業、勘弁してもらって…」
妻「今がはじめてじゃない。私も言い出すきっかけが見つからなくて、こういう小さな賭けを何度もしてた。今日、0時を超えたら。今日、忘れてたら。今日、機嫌が悪かったら。何度も何度も、賭けをしてた。でもあなた、何も気付かなかったよね。」
夫「………」
妻「何考えてるの?」
夫「おれ、何してんだろうなって」
夫、自嘲気味に笑う。手で額を抑えて目のあたりを隠す。
夫「必死になって、走り回って毎日働いて働いて…、わずかな楽しみ探して…何のためにやってんだろうな、何しててもむなしいんだよね」
妻「……」
夫「心が離れてるのがね、わかるんだよな」
(公園)
おじさん「すると何か、それでネットから本から探しまくったおまえの仮定は、何らかの現象が起きてその二文字が世界から消えた」
少年「はい!だから見つけ出さないと。度胸がないなんて言われて黙っちゃいられないです」
オタク「それはー何だな、おれだってね、新しい綺麗なポスターよりね、この破れたのをはまゆちゃんの瞳の採光まで完璧に…こう、見事に…丁寧に貼ってる…つまりそゆことでしょ?」
カップルの彼女「ちがうでしょ」
少年「いえ、いいです、いいですよ。それもひとつの気持ちのかたちだと思います。それを探してるんです」
オタク「作っちゃえよ」
一同「えっ?」
オタク「なきゃ作りゃいいんだよ。消えたなら、創作しろ!」
一同「えええ~?」
オタク「探すのもいいけど、知ってるか?幸福の青い鳥は自分の部屋にいたんだぞ。はまゆちゃんがそう歌ってた」
カップルの彼「それとこれとは違うんじゃ…」
公園のベンチに紙きれがたくさん散乱している。
ショートカットの彼女が何か小さな箱型の機械を操っている。
おじさん「で、なにこれ」
カップルの彼「携帯画面を印刷できる簡易印刷機」
おじさん「この子いつもこんなの持ち歩いてんの?」
カップルの彼「はあ…まあ」
ノリノリで準備してるショートカットの彼女
カップルの彼女「はいどうぞ」
机の上には印刷した五十音が散乱している。
少年は目をつぶって、五十音を切り取ったかけらを指でつまむ。
手を持ち上げながら目をつぶって呪文のように空に語りかける。
少年「新しくつくったことばです。このことばは、この場に居合わせた人みんな、年齢も境遇もさまざまな人々に共有されたことによって共通言語となりました。ここにいる、このひとたちの気持ちをぜんぶあわせた気持ちを、もっと、もっと、もっと!強く!!」
差し上げた両手に「す」の字と「き」の字がつままれている。
少年「あなたにー!!」
ぱりーん!
うす曇りの空が割れた。
空から小さなかけらが次々に降り注ぐ。
みな、空を見上げる。
下を向いていたレストランの夫婦もその騒ぎに窓の外を見る。
道行く人「なんだなんだ」
慌てて出てくる中に、離婚話をしていた夫婦もいる。
妻「これ…」
夫「ああ…」
二人ともてのひらを広げて受け止める。
体に吸い込まれるように手の上でとけて消える「す・き」の二文字。
さっきからずっと雪のように降って来ていたのは、そのことばのかけらだった。
(バリエーションは色々、好き、スキ、loveもlikeもある、漢字や読めないアラビア文字もある)
「好きだ」
夫が妻の肩をしっかり抱くと、妻は寄り添う。
「そうだ、好きだよ!」
「好き…ね」
妻はそっと肩に置かれた夫の手に触れる。
無表情、無言の少女が通りかかり、手に乗った文字を見つめる。
少女の周囲にかけらが降り注いでいる。
携帯を見て、笑顔が浮かぶ。
画面には、少年の写真が写っている。
見上げると、雪のように降る好きの中に月が光っている。
少女、画面に打ち込む。
「わたしも」
「月がきれいですね」
草枕と三四郎とストレイシープの文字がオーバーラップ。
アナウンス「その二文字を追い求める人々は今日も迷える子羊のように、失われたことばを示す記憶のかけらを探して今日もさまよっている…」
おわり。
夜中にガバッと起き上がって唐突に書いてみました。
何せシナリオを書いてみるって初めてなので面白かった。
ちょっと長すぎるからドラマには不向きっぽい。
テーマも少しそれてる気がするぞ。
そのうち、小説仕立てにしてみようかなと思います。
どうして題名に(/ω\)が付いてるかというと、テレ東と変換しようとするたびに、PCが照れ(/ω\)るので、そのままにしてみました。
児童書を保護施設や恵まれない子供たちの手の届く場所に置きたいという夢があります。 賛同頂ける方は是非サポートお願いします。