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超短編小説|昔ながらの喫茶店
「いらっしゃい」
ドアを開けると、そこは昔ながらの喫茶店だった。年季の入ったテーブルに、床を歩くぎしぎしとした音、店内から漂う新鮮なコーヒーの香りをのぞけば、すべてが古めかしい。
私は店の隅っこの席をさがし、椅子に腰かける。店内を見渡すと、年配の常連客らしき人が大事そうにコーヒーをすすっている。奥に目をやると、白髪頭の店主とおぼしき男性がコーヒーを淹れているのが見える。
コーヒーの粉の入ったペーパーフィルターにお湯をゆっくりと注ぐ所作。常連のお客さんとの親しげな会話。店内に響き渡るBGMのジャズの演奏。何もかもが絶妙に整っていた。それは、私がよく通っているカフェチェーンとはまったく異なっていて、そこにはたしかにゆっくりとした時間が流れていた。
やがて、カウンターで親しげにお客さんと話していた老婆が、注文を取りにのろのろとこちらへやってきた。彼女は腰が曲がっており、つねに前かがみの姿勢を保っている。
「いらっしゃい。注文は何にする?」
堂々とした張りのある声だ。とても年老いた女性の声には聞こえない。私は彼女のもつアンビバレンスに少し怖気ついてしまった。
「えっと。メニューはありますか?」
「うちには、メニューは置いてないよ。お客さんの欲しいものを作るのがうちらの使命なのよ」
私は、聞きなれない答えに面食らった。生まれてきてからずっと、決められた中から選ぶのが当たり前だったのだ。自分が本当に何を欲しているかなんて深く考えたこともない。
いつも誰かと同じ飲み物を注文した。それは、人が飲んでいるものが美味しそうに見えたからではない。つねに誰かに合わせることが正解だと思っていたし、間違いだと疑ったことは一度もなかった。
私はしばらく考え込んでいると、しびれを切らした老婆がおもむろに口を開いた。
「自分が飲みたいものを選ぶっていうのは、慣れないうちは難しいことよね。うちはコーヒーが自慢だから、特製のアイスコーヒーっていうのはどうだい?」
「はい。それでお願いします」
この場所に通えば、誰かの正解を求める私の面倒な性格とお別れできるかもしれない。まずは小さくてもいい。何か新しい変化が起こるかもしれない。私はひんやりと冷たいアイスコーヒーを一息に飲み干し、店を後にした。
こんばんは。雨宮大和です。久しぶりに短編小説を投稿しました。タイトルに#Short Storyを入れてみたのですが、いかがですか?個人的には、すごく気に入っています。
ただ、小説の中身についてはもっと書けるんじゃないかというのが、今の僕の感想です。少し間をおいてから、つづきを書いてみたいと思います。書けたら、またnoteでご報告しますね。では!!
2021.10.04.
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