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超短編小説|移住計画
「博士。発見しました。」
「本当か?住めそうか?」
「はい。ここなら、空気も水もあります」
「よくやった」
乗組員も含めこの宇宙船に乗っている者は、突然の朗報に喜悦の表情を浮かべた。なかには歓声を上げる者もいた。それも無理はない。ずっとこの日を待ち望んでいたのだ。
振り返れば十年前。我々はこの宇宙船に乗り込み、新たな居住地の探索に踏み出した。温暖化が激化し、移住を余儀なくされたからだ。そして十年間もの間、この宇宙船の中で生活していた。
船上に娯楽などひとつもない。つねに不安と恐怖の連続だった。はじめは皆が期待を胸にふくらませ、この宇宙船に乗り込んだ。もっとも、我々の最後の希望だったのだ。
しかし、探索から2年が経った時、宇宙船が予想もしない方向へ吹き飛ばされそうになった。それから、隕石にぶつかり、外に出て修理をしなければならなくなった。それでも逃げずにやってこれたのは、移住という微かな希望を心のどこかに抱いていたからである。
ここ数日はろくにご飯も食べていなかった。タンクに保管していた水も食料も尽きてきた。幸運が訪れたのは、まさにその時だった。こんなに喜ばしいことはない。空気も水も十分あるなら、生活に支障はない。
「博士、ひとつだけ問題があります」
研究者のひとりがおそるおそる切り出した。
「なんだ?」
「この国の住人は争いが好きなようです。毎日のように戦闘が繰り広げられております」
「なんだと?」
博士は望遠鏡を手に取り、その星に焦点を当てた。そこには、人々が激しく火花を散らしている様子がレンズ越しでも見てとれた。
博士はしばらく唖然としていた。高度な文明をもった我々が野蛮人の星に住まなければならないのだ。もしくは、また別の星を探さなければならない。
そうなれば、もう十年、いやもっと多くの時間がかかるかもしれない。自分にはこの宇宙船に乗る者すべての命がかかっている。博士は苦渋の決断を迫られていた。
一方、何も知らない宇宙船に乗り込んだ住人たちは、期待を胸にふくらませていた。
「あの星に行ったら、何しようかなぁ」
「私は海を泳ぎたい」
「俺は山に登りたい」
彼らは、自分のやりたいことを口にしながら、はしゃいでいた。中には、涙を流している者もいた。これまで耐えてきた過酷な生活から解放されるのだ。それも無理はない。
「博士、ご決断を」
「よし。着陸だ」
しばらく博士は住人たちを見つめ、ようやく重い口を開いた。
これからは覚悟しなければならない。あの星で起こる、激しい戦争。頻繁に起こる災害や感染症。そこに住む人々は自分勝手で傲慢だ。でも、もう決めたのだ。
これからは、みんなで地球に住むと。
こんばんは。雨宮大和です。今日は、『移住計画』 をお届けしました。この作品は半年くらい前にnoteに投稿したものなのですが、改めて今回書き直してみました。スキを押してくれると、嬉しいです。
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