電車とか、廊下とか、
どうしても僕は、ショルダーバッグを持てない。
下世話な言い方であるじゃんか。パイスラッシュって。あれ地獄みたいでしんどくて。好きでそんなことしてるわけじゃないんすよ。膨らんでたらへこんでるとこに滑るでしょ。好きで強調してるんじゃないんすよ。
ショルダーバッグを一時期よく使っていた。斜めがけのやつ。楽だし、入れたいもの全部入ったし。好きだった。
今は、斜めがけなんて絶対できない。
僕の身体の性別の話をしよう。
男でも女でもない、空っぽかまんなか。だと、言いたい。でも身体の性別は女性。胸も膨らんでるし子宮もある。発行したことないけど、パスポートにはFって入るんだろうな。パスポートってMaleとFemaleだよね確か。
脱衣場で服を脱いで、鏡に自分の姿が写って。痩せてないわけだから、別に大したくびれがあるわけじゃないけれど。膨らんだ胸も、出っ張った尻も、丸みを帯びた太股も、気持ちが悪い。すぐ眼鏡を外すからあまり長く見ることはないけれど。でも見えないわけではなくて。
痩せればいいだろって話なんですけど、それはやっと今から頑張れそうだから、もう少し待って。
猫背はコンプレックスの一つだ。原因の大半は、筋力の無さと自信の無さと電子機器の使いすぎなんだろうけれど。
少しだけ、多分、胸を隠すためだったのかもな、と思っている。それが癖になったのかもしれない。少なくとも、胸を張るのが苦手なのは、胸が強調されるからだ。
ちゃんと下着屋さんに行ってフィッティングするべきなのは分かってる。カップとか自己計測だし。でも、入れない。嫌悪とか恐怖とか申し訳無さで。女性のための空間じゃん、あそこ。入ったことないから分からないけれど。いつか行きます。
下着屋さんって、胸を綺麗に見せようとすると思うんですよね。知らんけど。違う、それは望んでいない。潰したいんすよ。胸を。多分良くないじゃん。形崩しにかかってるわけだから。
多分ね、平均くらいにはあるんよな。お胸。普通、だと思う。少なからず無い方ではないんだよきっと。そりゃ太ってるから。じゃあ痩せろってな。頑張れそうだからそれは頑張る。
舞台に上がるとき、先輩に胸の潰しかたを教わった。腰に巻くサポーターを、谷間からぐーっと一周体に巻き付ける。寄せるときの反対ね、と。ワイヤーない下着つけてね。そうやって声をかけてもらった。
苦しかったけれど、だいぶ、息ができた。写真で見るとまだ出っ張っていたけど。舞台に立っているその瞬間は、楽だった。
人の目が嫌いだ。特に、女性に対して向く視線が。性的対象として見られているような、品定めされているような視線が、いっとう苦手だ。見ないでくれって叫びたくなるし、うずくまりたくなる。
自意識過剰であると、自覚している。ただ、どうやらそういう性質らしくて。電車の笑い声が怖い。すれちがう人の視線が怖い。廊下の隅のこそこそ声が怖い。それが自分に向くはずないと、理解はしているのに。それでも怖いのだ。
これも多分、ショルダーバッグを持てない理由の一つ。
スカートが、履けない。履いてる自分を鏡で見られない。うわ気持ち悪、って思ってしまう。女性的なラインが出る服も同様。家出るまでは大丈夫でも、ふと窓やガラスに写った自分に嫌悪感を抱くことも、多々ある。
わりと面倒くさい。家出る前に何度着替えれば気が済むんだ、とか。面倒くさいのになおらない。不愉快極まりないのに、なおらない。
これは、女性として認識されたくないから、だと思っている。
女性じゃない、という主張に関しては、以前書いた。だから二度目は語らない。以前はこっち。
多分、視線や意識が自分に向いていることが苦手なんだろうなと思っている。笑い声とかもそう。それが性的な意識を含むものなら、尚更。
そして、そんな視線なんかが自分に向くと思っている自分が、いっとう嫌いだ。
多分一生、これは変わらない。僕はショルダーバッグを持てないし、滅多にスカートが履けないし、怖がりだ。
だから、だから、いるか分からない誰かへ。
ここにもいるよ。
そんな密かな呼吸だけの、話。