「場所を選ばない働き方」が絵空事になる理由
※写真と本文は関係ありません
インターネットの普及・発達に伴い「場所を選ばないで働ける時代だ」と言われるようになってきました。
一方で「場所を選ばないで働ける」仕事はもっと多いはずなのに、実際には「場所を選ばないで働く」仕事も人も限られているという残念な現実を、私は目の当たりにしています。
なぜ残念かというと、これは結果として東京一極集中を加速させ、地方の過疎化を進めることになり、最悪の場合、いつの間にか離島は日本じゃなくなる…なんてことも…
そこで今回は「場所を選ばない働き方」の実現にとって障害になるのは何なのか、私の限られた経験に基づく実感を書き綴ります。
わざわざ「場所を選ばない働き方」に合わせるメリットが企業にない
まあ、これが一番かもしれません。
後述する点もありますが、「場所を選ばない働き方」を実現するには、企業としての制度やシステムなどを転換・整備することが必要になります。
一方で、企業側からするとそこにメリットを実感しにくい。「場所を選ばない働き方」でめちゃめちゃ売上が上がったり、利益が爆発的に伸びるかといわれると、なかなかそういう事例があるわけでもない。
じゃあ、別にオフィスに普通に来てくれたらいいじゃん。席あるんだし、来てくれたら仕事しているの確認できて楽だし。
リモートワークを導入できない大企業があるのも、きっとこのあたりですよね。転換・整備が必要な規模が大きくなればなるほど、二の足を踏んでしまうのも無理はないことです。
こうなると東京五輪をきっかけにリモートワーク推奨期間が設けられるというような、「メリットがどうこうとか、甘いこと言ってんじゃねえ!」アプローチが一歩を踏み出すには有効なのですが、それだと一時しのぎばかりになって定着はしないでしょう。
ただ、奄美大島なんかはすでにそうなっていますが、今後ますます高齢化が進行し労働力が限られてくると、親の介護や育児で「働き方を選ばなくていなら働ける」人を戦力化することが企業にとってメリットになってくるはずです。
そうすると、実は地方の企業の方が「働き方を選ばない働き方」を導入するメリットは高く、そこから広まる方が妥当なのかもしれません。東京でバリバリやってる人に副業などでジョインしてもらえる可能性も出てくるわけだし。
そういった今後出てくるであろうメリットを見越して今から取り組めるかという、経営者の先見の明が問われる話でもあるのかもしれません。
同じ場所にいれば、状況を把握できるという神話
オフィスにいれば、部下の状況も把握できるし、仕事ぶりもよく伝わるし、上司にいつでもホウレンソウできる方が仕事しやすい…という神話が、「働く場所を選ばない働き方」実現の前に立ちふさがります。
逆にいうと「同じ場所にいないと不安」なんですよね。まあそれは人としてそれが普通なのかもしれない。
でも、同じ場所にいれば「本当に状況を把握できているのか」「適切なコミュニケーションが取れているのか」ということはちゃんと考えた方が良いと思います。
同じ場所にいてもうまくいかないものはうまくいかないし、把握できていないことは把握できていないわけです。
実際、東京にいる人が把握していなくて、なぜか奄美大島にいる私が把握していた件とか、東京にいて直接MTGした結果の悩みが私にチャットで届くという事が起こり、「結局同じ場所にいれば、なんてのはオフィスで働くことを正当化するための後付けの主張だな」という確信が持てました(笑)。
「上司がいない方がよく働く」なんて会社や部署の話を耳に挟むことがありますが、同じ場所にいるからこそデメリットが生まれることもあるのですが、そういうところを客観的に比較されることはあまりない気がします。
神話の力は、まだまだ強いのが現実です。
システムやワークフローが「オフィスで働く」前提になっている
チャットやWebMTGなどを中心としたコミュニケーションで仕事ができたとしても、結局は会議室のMTGで進めることが多かったり、情報共有が口頭ベースであったりすると、その環境にいないと仕事が進めづらい、ということが起こります。
実際、ちゃんと会議システム導入してない会議室で4人+WebMTGで1人とかでミーティングしても不毛です。途中から誰が何言ってるのかよく分からなくなるし。
そうなると揚げ足取られたり、一部が切り取られたりするケースもありました。趣旨がきちんと伝わりきらないというか。ここはもはやシステムがどうこうというより、人間の慣れの問題ですが…。
また、口頭ベースで終わる情報共有が頻発すると、いつの間にか情報がキャッチアップしきれなくなったりします。でもこれは正直、同じオフィスにいても同じことなので、そもそものやり方がまずいって話でもあります。
制度だけ「リモートワーク」を導入したとしても、システムや仕事の進め方が「場所を選ばなくて大丈夫」な形になっていないと、結局は「オフィス中心主義」から脱却できません。
このあたり、現場の業務レベルまできちんと適応するしくみをつくるのにはやはり手間暇と投資、あとそれぞれのメンバー自身が慣れることが必要で、大きなハードルのひとつだと感じます。
スキル差・リテラシー差・温度差・意識
スキルやリテラシーについていえば、「その差があるからこそ同じ場所に集めた方が楽」なんですよね。
実際、リモートワークしていてストレスが発生するのって、「同じ言語が通じない」「突然変な動きを勝手にする」「指摘している内容の意味を理解しない」というような、「メンバー間の差」から生じるケースが多い。
じゃあ同じ場所に集めているとどうなるかっていうと、「スキルやリテラシーの高い側が低い側をカバーする」という状況が生じているだけだったりするんですけど。
逆にいうと、カバーしてもらう側からすると、同じ場所にいてカバーしてもらえる方が圧倒的に楽な環境ではあるわけですし、実際に新卒入社や業界未経験などの人にはそういった助けが必要なのも事実でしょう。
温度差や意識の差なんかも、そこらあたりから生まれてくるものでもあったりします。要は「オフィスに来ておけば仕事していることになるから楽だし、その方が良い」っていう、私が東京にいた頃みたいなことを考える人とか(笑)。
実際のところリモートワークにおいて一番ラクなのは「近いレベルで会話が成立する」とか「お互いの領域について自分の判断で進められる」とかっていう、「差があまりない」相手との仕事です。
逆に言えば、一定規模の会社であれば、さまざまな「差」ができて当たり前であり、そこをどう吸収するかは結構大きな課題だろうな、と。
対面の方がなんか安心という空気感
ほら、会社の登記にはハンコが必要とかいう、ちょっと前に盛り上がったあの話ですよ。
そろそろ文章書きすぎて疲れて頭がおかしくなったわけではなくて、何が言いたいかと言うと、「既存の習慣」ってやつは手強いってことです。
対面営業が基本とされてきた文化とか。
これまで述べてきたような「オフィスで同じ場所にいる方が安心」という考え方とか。
そういう「今までと同じやり方」って安心です。
「対面の方がなんか安心だし」っていう、とくに根拠がないような話は、実際には「今までと同じやり方だから安心」ってことなんですよね。
そして一見すると「今までと同じやり方」には全然リスクがないように思えるんです、本当はたくさんあったとしても。
とくに社内的な要因はなんとかなるとしても、「何かあったときに顧客と対面で打ち合わせが必要」とか「対面営業じゃないと受注できない」とか。
自社だけが頑張っても(BtoBの場合)顧客側の理解が得られないと事業としては難しい。
この、世の中の「なんとなく働く場所を制限する空気感」というやつが実は一番の強敵なのかもしれない、と思います。
なにせ「電話なくすなら契約を切る」っていうくらい、既存のやり方で思考停止している企業が存在するのが現実なわけで…。
「場所を選ばない働き方」はきっと実現しない
こうして考えてくると、「場所を選ばない働き方」なんて絵空事なんだとよく分かりますよね。
ただそれでも、以前に比べれば、フリーランスだけでなく会社員でもそういう働き方をしている人が増えていたり、リモートワークメインで業務を進める会社が出てきたり、Web関連の業界において、一部機能を地方拠点に置くケースなどが見られたり、と、光は射してきている感じがします。
なので個人的には、「場所を選ばない働き方をしたい人ができる」世の中になってほしいと願っていますし、自分が成功例となりたいなとも考えています。
「何に縛られるでもなく 僕らはどこへでも行ける
そうどんな世界の果てへも 気ままに旅して廻って…」
(Mr.Children『Worlds end』より)
そんな自由な未来の方が、きっと楽しいんじゃないでしょうか。