【分割版】ボカロとかいうクソデカい物語の主人公『初音ミク』【その4】
※本noteは、7.4万字も書いたせいでnoteがクラッシュしてスマホで読むことができなかった以下のnoteの分割版その4です。内容は同一ですが、有料部分は元noteにのみ付属しています。
■前回
さつき が てんこもり
ここからは何人かの「ネタ系」のボカロPに焦点を絞っていく。
「さつき が てんこもり」はボカロはもちろんのことアキバ系のリミックスや作曲の分野においても広く知られる。特に有名なのは公式に逆輸入もされた『【ファミマ入店音】ファミマ秋葉原店に入ったらテンションがあがった』だろう。
ガチでわざわざこの場で書くことでもないが淫夢厨であることを告白しており(隠しておらず)、なんとクッキー☆声優のYMN姉貴の楽曲を手掛けた経験もある。たまげたなぁ...
しかしあくまでこのnoteの主目的は初音ミクもといVOCALOIDの軌跡を追うことなのでボカロ楽曲に立ち返ろうと思う。
ボカロPとしてのさつき が てんこもり氏の代表曲といえばこれをおいて他にはない。
MMORPGをテーマに作られた『ネトゲ廃人シュプレヒコール』の歌詞に多くのボカロ厨が涙した。なぜなら2010年にニコニコでボカロ聴いているやつなんて昼間っからネトゲしてる引きニートか痛いキッズしかいなかったからだ。今みたいにファッショナブルな存在じゃなかったんだよ、ボカロは。
「ネトゲ廃人」とあるように歌詞ではネトゲーマーがあるあると共感してしまうシチュエーションが歌われている。動画中のコメントではブロントさんをはじめとしたネトゲの名言やサ終報告が書きこまれることも多い。
いつになっても着飾ることなく、常に「俺たちの味方」であり続けてくれる身近な存在だからこそ、さつき が てんこもり氏は根強い人気をほこるのだ。
ギガP
面白い動画とはなんだろう、答えは男子諸君が視線を少し落とすだけで得られる。
それはち〇ち〇だ。〇ん〇ん。笑いの答えはちん〇〇に全て詰まっている。
笑いをとるには〇〇ちん。一にも二にもちんち〇。ち〇んちんを制したものが笑いを制すると言っても過言ではない。
そんなノリで作られたとしか思えない曲が470万回以上再生されているのだから凄い。
『ギガンティックO.T.N』というタイトルもさることながら「おっちん」から始まってしもとるし言い訳をする気がまるでない。しかしこれが良い曲なのでなんとも悔しい。
もはや全てのオタクがカラオケと放送室に殺到してキシキシと笑っていたことは言うまでもない。黒歴史を思い出すからこの曲を聴きたくないというオタクも少なくないだろう。当時は全てのメガネをかけている女子が『ギガンティックO.T.N』を聴いていたし、一人の例外もなく全員黒縁メガネだった。
正直言って当時はギガPに対して上記と『おこちゃま戦争』のイメージしかなかったため『ヒビカセ』が投稿された時はそれはもう驚いた。この曲を?ギガが?マジ???
"初音ミク"をテーマに、「私の声」を「ヒビカセ」と歌う歌詞には多分にメッセージ性が盛り込まれている。
『ギガンティックO.T.N』とほとんど対極にある重厚感のあるダンスミュージックとシリアスな歌詞に正直ドハマりしたしDIVAもめちゃくちゃ叩いた。初音ミク"を"歌う曲に本当に弱い。だって、ほんまに、「魅了されていく」んだもん。聴けば聴くほど『ヒビカセ』に、初音ミクに。
おにゅうP
まずはおにゅうP楽曲の楽曲名をご覧いただきたい。
祝ってやる
J( 'ー`)し カーチャン
ガチャまわせ
キンタマにハッカ油を塗ったなら
クソゲー実況プレイ
シャブ漬け
世界はおっぱいに満ちている
裸だったら何が悪い~sing go~
般若心経ポップ
これはおにゅうP楽曲の一部だが、その一部を垣間見ただけでもネタ曲の宝庫であることがおわかりいただけるだろう。
おにゅうPの楽曲には独特な着眼点の含まれるものが多い。特に『般若心経ポップ』は一般人になじみのない「般若心経」を、一般人が馴染むことによって生じる「ポップ」の音楽ジャンルによって再編した曲になっており、その特異性が話題を呼び2023年3月9日現在、おにゅうP唯一となるミリオンを達成している。
『般若心経ポップ』にはロックやR&Bなど様々な派生アレンジが存在する。『般若心経ポップ』を皮切りにしたのかどうかはわからないが、空前の般若心経ブームを巻き起こすことになり、ニコニコ超会議では『超テクノ法要Remix』とあるように般若心経とテクノが融合した。
おにゅうPにネタ曲メーカーのイメージを植え付けておいてなんだが、それだけで終わらないのが同氏の魅力である。おにゅうP楽曲は一見、ネタに振り切ったように見えてその実、鋭いメッセージ性を孕んだ謎の感動を伴なうものが多い。
ミリオン入り間近でDIVAにも収録された『神曲』も、曲のタイトルが指し示している通り、遍く中のたった一つの曲が"神"とまで呼ばれる構造に対する批判と、しかし、こんなものに救われている私たちという俗なまでの現実が歌われている。
ちなみにDIVAにおける『神曲』のMVでは初音ミクがまるで神であるかのように扱われている。"髪のように薄く散ってくかもしれないが 私はこんなもので救われるのですから"とあるように、初音ミクを救いのシンボルとする浅はかさと、しかしその信仰によって排他された生活に耐えて生き延びることができている現実という二面性がここでも表現されている。
"一風変わった曲では"、というマイルドな言い回しが許されるのならば、この曲も紹介しておかなくてはなるまい。
『例ノアレ』は文字通りニコニコ動画における「例のアレ」が詰め込まれた楽曲となっている。ちなみに筆者はこの楽曲に採用されている全ての元ネタを解説することができる、履歴書には書けないタイプの特技だ。
『神曲』とはまた違ったベクトルだがこの曲も「謎の感動」を内包しており、ビリー兄貴と初音ミクと野獣先輩が「レ淫ボー共同戦線」を結ぶラストシーンで最高潮を迎える。歌詞の意味するところはほとんど『神曲』と変わらない。「汚い神曲」とも言えるだろう。
投稿された当時から「すぐに消される」と誰もが確信しており、視聴者は視聴日時をコメントすることでせめて今日までは生き残ったという証を残そうと尽力したが、思ったよりしぶとく2023年3月9日現在においても問題なく視聴することができる。これもうわかんねぇな。
さて、個人的な話ではあるが、そんなおにゅうP楽曲の中に私の最も愛するボカロ曲が存在する。それが『タイム真心』だ。「タイムマシン」と音で発するとどうしても1640mPの楽曲がスタンダード故にそちらを連想されるので、いちいち「真心のほうの」と添える必要がある。
この曲は、本当に何度聴いても泣いてしまう。何をやってもうまくいかない若くしてボカロばっかり聴いてるニコ厨たちに向けた歌詞は、悲しみと後悔に寄り添っており全てのフレーズが共感を呼ぶ。おにゅうP特有のコミカルなMVが、コミカルなMVであるからこそ、かっこつけずに、等身大のまま私たちの人生を受け入れ、そしてこれからの人生を応援してくれている。
「なんのことかわからない」といった表情の初音ミクが、我々の挫折と希望を一心に背負い未来に向かって走っていく姿には心奪われる。初音ミクはいつだって私たちの想いを背負って走っているのだ。この曲に限らず、いつの時代の、どの動画でも。
ほぼ日P
ネタ曲を扱うボカロPといえば真っ先にこの人を連想するボカロ厨も少なくないだろう。ほぼ日Pは「ほぼ毎日」楽曲を投稿していたからその名がついたという経緯が示すとおり、なんと投稿楽曲数は2023年3月9日現在で400曲以上にのぼる。
代表曲『家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています。』をはじめとしたストーリー形式のネタ曲や、『アダルトサイトが閉じられない』などのあるあるを扱ったネタ曲など、曲の種類も多岐にわたる。
■家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています。
■アダルトサイトが閉じられない
しかし最も邪悪なのが『ヤバイと思ったが性欲を抑えきれなかった』や『蒟蒻ゼリーを食べると死にます』など、時事ネタを扱った曲である。ほぼ日Pは(当時のボカロPにとって珍しいことではないが)徹底的に2ch脳なので、2ch等のアンダーグラウンドなインターネット的価値観に根差して曲が作られている。それ故に、『蒟蒻ゼリーを食べると死にます』はもはや曲名からして現代のコンプラを基準に照らし合わせて考えると危険な楽曲である。
ニュースに載るような事件だけでなく当時の歌い手に対する嫌悪感を歌った『インターネットカラオケマン』や、歌い手の発言を馬鹿にした『お前らに歌い手の辛さの何が理解るわけ?』など、インターネットの価値観がそのまま曲となったような作品が多い。当時の、若かりし頃は筆者も2ch脳で、インターネット的価値観の信奉者だったのでおもしろおかしくほぼ日Pの曲を聴くことができていたが、今視聴するとどうにも厳しいものがある。これが大人になるということなのだろう。
当然ニコニコ大百科の「ほぼ日P」のページではほんわかレスが推奨されている。
オワタP
ネタ曲といえばオワタPのことも忘れてはならない。というと「いやオワタはネタ曲だけじゃないんだが...w」とニコキッズのお叱りを受けることになるがここでは無視する。
代表曲『トルコ行進曲 - オワタ\(^o^)/』の投稿日時を見てわかるように古くから活躍するボカロPである。
オワタPはほぼ日Pとはまた違ったベクトルであるあるネタを曲にしてきた。中でも『廃人チェック』は、ボカロ厨あるあるを「ボカロ廃人のチェック」に転用した珍しい楽曲である。当時のボカロ厨は"廃人チェック"の項目にいくつ当てはまるか、まるで足枷の重さを自慢し合う囚人のように競い合った。厳しい。
今では廃人チェックに「パラジクロロベンゼンになぜか詳しい」を入れてもいいかもしれない。
「パラジクロロベンゼン」が何を意味しているのか、13年経った今となってもよくわからない。小説化したのは知っているが、読む気はないのでなおさらわからない。とにかく当時のオタクたちは"ただ意味も理解せずに"パラジクロロベンゼンに思いを馳せ、化学の参考書に載っている分子式は覚えないくせに無駄にパラジクロロベンゼンのそれは躍起になって暗記した。
『パラジクロロベンゼン』のアンサーソングである『アンチクロロベンゼン』も作成されており、両曲併せて800万以上の再生回数を記録している。
『パラジクロロベンゼン』や『トルコ行進曲 - オワタ\(^o^)/』ですら黒歴史を掘り返すための切り口を与えられているように見えるが、オワタP発黒歴史量産ソングとしてこの曲を挙げないわけにはいかない。
歌詞のほとんどを占める「リンちゃんなう」のフレーズ、リンちゃんに向けた欲望の数々、やけに具体的な妄想、地味に高いBPMとカラオケで歌うには相応の勇気を要する曲であることは一目瞭然であるが、、、当然全員歌った。それも酷いクオリティで。
ところで黒歴史ソングと__(アンダーバー)は切っても切ることができない。当然、__が歌ってみたを投稿しており、オタクはこぞって__のバージョンをカラオケで(ry
正直今となってはオワタP楽曲の視聴は厳しい。いつだってこの手の曲に向き合うには、若さゆえの勇猛と無知ゆえの果敢が求められる。しかし、少なくとも当時は「オワタ\(^o^)/」と両手を挙げ、意味も理解せず分子式を暗記し、「リンちゃんなう!」と声高に叫ぶことで、オタクたちの人生を豊かなものにした。だから、僕の中の『リンちゃんなう!』の思い出は、心の中の宝箱に閉まっておくよ...プロセカをプレイしても開かないように、しっかりと――――――
くちばしP
ネタ曲を終え、ガチに戻ってきました。
本当に好き。もうその一言。
本当に『どういうことなの!?』が好き。『どういうことなの!?』の全てが好き。とりあえずつべこべ言わずに上記動画を見てほしい。
くちばしPはサムネなど自身で描いていることでも知られるがどことなくロリっぽい、幼さの残る絵柄に定評がある。そんなくちばしPがMMDを手にするとどうなる?
あざとい、さすがLat式、あざとい。ただでさえあざといLat式ミクにこれでもかとあざとい振付。まだ幼さの残るミクが「どういうことなの!?」と幼さ故の無知を、無知故に直接的に問いかける歌詞はあざとさの中に少女の純真が見え隠れする。プログレッシブ風なそれでいてケルト風なイントロは開始15秒で早くもボカロ厨の心をわしづかみにした。
ボカロ曲には難しい言葉を知ったかぶって歌詞に落とし込んでエモくなった気になっているものが多いが、『どういうことなの!?』は"難しい言葉"がそのまま「不可思議の対象」として、極めて素朴に使われており、理解不能な"あなた"の心のメタファーであるところの「理解不能な対象」に対して「どういうことなの!?」と問い続ける構成は素直で美しい。
くちばしPの独特な世界観がそのまま曲になった『どういうことなの!?』、DIVAに実装される際にはさぞ、MVづくりに苦心されただろうと推測するが、こちらも見事にくちばしPの世界観をそのままに歌って踊る、"DIVAのMV"として昇華できている。ありがとう...
そんな『どういうことなの!?』のセルフアレンジソングである『Do You & So You』が投稿された時はそれはもう熱狂した。ただでさえ完全な楽曲『どういうことなの!?』に、セルフアレンジ?!ありがとう...
調教の成果なのか、MIXによるものなのかはわからないが、より可愛らしさを増した初音ミクの歌声からは一層の幼さを感じ取ることができる。しかし歌われている内容は少女の不-理解から一歩進んで、なにを"あなた"に望んで、私がなにを求めているのかが明確になっている。
『Do You & So You』からは、『どういうことなの!?』投稿から約2年を費やした、くちばしPワールドのより洗練された形をうかがい知ることができる。
しかし、こんだけ『どういうことなの!?』を持ち上げておいてなんだが、くちばしP楽曲で最も好きな楽曲というのがある。もう、この曲をおいて他にはあり得ない。『私の時間』だ。
泣くんやけど、もう。
"ボカロユーザー、リスナーの皆に捧ぐ音楽" と説明文にあるように、初音ミクからボカロ厨に対しての想いが歌われている。
この曲のどこにやられてしまっているのか、それは1番サビとラスサビの歌詞に全てが集約されている。
1番サビでは
と初音ミクの不安が歌われている。『私の時間』の動画投稿は2007年の10月、まだ天下の『メルト』も投稿されていなかったボカロ黎明期である。初音ミクの不安は、そのままニコニコユーザーの不安の裏返しである。ニコニコ動画がまだ一動画投稿サービスでしかなく、類を共にするオタクたちからすらもボカロ理解が得られなかった当時、ニコニコ動画、そして初音ミクの占めるインターネットでの地位は決して大きいものではなかった。そんな状況にも関わらず、VOCALOIDの、初音ミクから感じた"特別"を信じた彼らに対して、初音ミクはラスサビで
と宣言する!!!!!!!
これ、もう""祈り""なんですよ!!!これもう俺たちの祈りを、圧倒的社会的マイノリティである俺らの祈りを、初音ミクが一身に背負って「それでもわたしは止められない!」と宣言してるんですよ!!!
それって...! そんなのって...!!!
そんなのって、美しすぎる。
■次回