「始末者」
──ある路地裏。
「ハアッ、ハアッ…ハアーッ!」
男は必死に「何か」から逃げていた。
「ここで…ここで死ぬわけには…!」
男の懐には、とある富豪の屋敷から盗み出した宝石が仕舞われていた。
「コイツを遠くの街で売って、こんなクソみたいな生活からオサラバするんだ…!」
男は走る。自らの手で掴んだ希望を現実にするため。
走る。走る。地面を力強く踏み締め、走る。
走り出してどれくらい経っただろうか。
既に建物と建物の隙間から入ってくる光は赤く染まっていた。
どうやらもう日が落ちる一歩手前のようだ。
鴉の鳴き声があちらこちらから聞こえてくる。
男は事前に逃走経路として目星をつけていた場所へとたどり着いた。
「あそこを通ればこの街から出れるはず…!」
その時である。
乾いた銃声が鳴り響いた。
「ッ……!」
男の目の前に、年端もいかぬ少女が。
銃を構えている。
(考えるんだ、コイツから逃げ出す方法を)
男は考えたが、名案が思い浮かぶことはなかった。
銃声が2発、それと同時に男に激痛が襲いかかる。
そして、ばたりと崩れ落ちたからだ。
少女が倒れた男に歩み寄る。
「ハァーッ…ハァーッ…」
男は力を振り絞り、脚に掴みかかろうとした。
しかし、その腕は少女に足で押さえられた。
「こ、この宝石は返す…見逃してもらうことはできないか…?」
男は命乞いをすることしかできない。
「…ダメだ。私の依頼は宝石だけじゃない。」
「…そ、その条件を満たせばいいんだろう?協力する…」
「お前を殺すことだ。」
──乾いた銃声が、裏路地に響き渡った。
………
少女──リコは動かなくなった男の懐から宝石を取り出す。
「…任務完了」と、無感情に呟いた。
そしてリコは、その足で依頼完了の報告へと向かった。
「始末者」おわり
イラスト:つちのこきづち https://skeb.jp/@kizuchi613/works/42