軍手探し 第1話 【落とし物は…?】
よく道端に落ちている軍手を見かける。それも片方だけ。
誰が落としたんだろうか…。何で落ちているのだろうか…。
あまり深く考える人はいないだろう。
俺もそのうちの一人だった。
「ふう…。次の物件にいくか」
俺は、アパートの管理会社の下請けの清掃会社で働いている。
1日に10数件の物件を回っては掃除していくという仕事だ。
自分のペースで進められるし、ひとりで気軽に仕事が出来る。
元々キレイ好きだったし、
掃除して素敵になったアパートを眺めるのは気持ちがいい。
仕事して、自分の家にかえって、仕事してたまに銭湯に行って癒されて…。
そんな代り映えのない毎日を過ごしていた。
そんなある日。
5件目の物件が終わり車に乗り込もうとした時、ふと目に入ったのが…
(あ…軍手だ)
中央線も引いていないような住宅街の道の中心に、白い標準的な軍手が片方だけ落ちていた。
何の気なしに視界に入ってきたが、
車を運転する人なら割とよく見る光景だろう。
誰が落としたの?職人さんかな?
その程度にしか思われない、捨てられた軍手。
捨てられたのではなく、
落してしまったもしくは飛ばされてしまったのかもしれないが…。
条件反射のように、
後ろポケットにいれてある自分の軍手の存在を確認した。
自分のではない。
ポケットのふくらみを確認し、車に乗り込もうとした。
(さあ、昼飯だ。今日は何食おうかな…)
バタンッと運転席のドアを閉め、シートベルトにて手を伸ばしたが
視線はまだ軍手から離せずにいた。
(なんで…落ちてるんだろう?)
そんなこと、今まで思ったこともなかったのに…。
手にしていたシートベルトから手を放し、車から降りた。
何かに引き付けられるように、軍手が落ちているところまで足が動いた。
(早く飯食いたいのに…なんで車から降りてまで…)
少し困惑し、軍手に近づくにつれて少し心臓が踊りだした。
(まぁ、いうなればゴミだし…。ちゃんとゴミとして捨てといてあげないと)
そう思いながら、軍手に手を伸ばした。
その時ふと脳裏によぎる。
いたずらで変な仕掛けがあるんじゃないか…
拾った瞬間、下から変な虫が飛び出してくるんじゃないか…
犬のフンが中に入っているのでないか…
一瞬、躊躇した。
が、汚物をつまむようにそっと軍手を持ち上げる。
すると
期待以上のものはなく、ただの軍手だった。
(なんだよ…ただのゴミじゃん)
まぁ、そうだよなと思いつつゴミ袋に入れようとしたが
軍手に少し重さを感じた。
(何か…入っている?)
そっと軍手の中身を覗くと…
中には
500円玉が入っていた。
(おっ!500円が入ってる!)
急いで取り出して、確認するがちゃんとした500円のようだ。
喜ぶと同時に、辺りをキョロキョロと見回す。
(もらっても…大丈夫だよな…)
誰かに見られていないか確認してから、500円玉を財布に入れ
軍手はゴミ袋に捨てた。
車を発進させた俺は、上機嫌で今日のお昼を何にするか考えていた。
「いやー、ついてたな!まさか、お金が入ってたなんて…。こいつで今日の昼飯を豪華にしてもいいな!」
いつもはやらないが、ラーメンを大盛りにしてチャーシュー丼をつけるのもいいな…。
などと考えながら、車を走らせ
結局、調子にのって一人回転寿司で腹を満たした。
次の日ー
昨日とは別ルートの物件を回っていた俺は、忙しいということもあってか
昨日の出来事を気にしていなかった。
順調に仕事が終わり、事務所に終了報告を終え自宅へ帰ろうとした時だった。
「ふうー疲れた…。晩飯はどうするかなー」
自家用車に乗ろうと、反対車線にある駐車場まで小走りで道路を横断しようとする。
いつもやっているので、慣れたもんだった。
しかし、ふと足が止まる。
中央線手前くらい、また軍手が落ちている。
その時、昨日の出来事を思い出した。
「あれ?また落ちてるよ…。全く…誰が捨ててるんだよ。あ、もしかしてうちの会社の人間かも」
この道路を横断するのは割と全社員がやっているので、
渡っている途中で誰かが落したのかもしれない。
そう思いながら、車が途切れるのを待った。
(そういえば…昨日は軍手の中に500円が入っていたな…)
落ちている軍手を見ながら、昨日の500円を思い出す。
(また、お金が入ってたらいいんだけどな!…まぁ、んなわけないけど)
ひとりでニヤニヤと笑いながら左右を確認し
車が途切れたのを見計らって、小走りで道路を横断した。
その最中に、素早く軍手を拾い反対の歩道へたどり着いた。
「全く…誰の軍手だよ…」
会社の人間が落したのが有力だろうと思い、
そのまま軍手を車に備え付けている小さなゴミ箱に入れようとした。
昨日みたいな期待があったが、明らかに重さを感じなかった。
中身を見ずにゴミとして処理しようと、軍手を小さく丸めようとした。
カサッ
丸めようとした際に、あるはずのない中身が出てきた。
「え…うそ…」
手に広げ確認した。
1000円札だ。
1話END