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白鳥あかねはロマンポルノの守護神だった!!  『スクリプターはストリッパーではありません』白鳥あかね 読書記録(2021.04.11)

 ニューアクションからロマンポルノへと路線変更した日活の撮影現場で、スクリプターとして奮闘努力した白鳥あかねは、言わばその「お仁王様」であった。ん…?、シーサーであった。いや、モスラであった。いやまずい、…とにかくそういう守護神だった。
 この本が面白いというのは、昨年(2020)小林信彦が「本音を申せば~週刊文春」で紹介していたと記憶している。すぐにさがしてパラパラと読んだら、とても面白い。これは腹を据えてキチンと読まなければと思いながら、図書館の本なので返却した。あらためて、読んで何が引っ掛かったのか考えると、個性の強い映画監督たちに愛された白鳥あかねの豪放キャラクターのすごさと能力の高さにもあるが、その仕事の時期が、私が映画を見ていた時期と重なるのだ。まだ何も成し遂げていない永島慎二のマンガの若者のように、名画座を巡り歩いていたあの頃に重なってくる。
 また、あの変動の時代のなかで、映画のことになると人格が変わってしまう映画監督たち(神代辰巳・藤田敏八・浦山桐郎・長谷川和彦・根岸吉太郎・相米慎二・池田敏春・荒井晴彦…他々)・名カメラマン(姫田真佐久…他々)・難しい俳優たち(ショーケン・内田裕也・片桐夕子・中川梨絵…他々)・プライドの高いスタッフ等、油っこい人ばかりに出会っていく。その白鳥あかねのほぼ一生分のロングインタビューである。
 企画・編集の高崎俊夫が、映画を見、丁寧に資料を読み、適格な質問とあいうちでとんでもないエピソードを引き出している。和田 誠の装幀も楽しい。力の入った仕事をした高崎俊夫は、1954年生まれ、…ということは、彼もあの変動の時代のなかで青春の映画を見ていたのだろう。
 わたしが内容を紹介するより原文のほうが何倍も面白い。抜粋する。
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【破防法反対デモでの逮捕事件~早稲田・仏文学部時代】
---ところで、学生時代、破防法反対のデモの際に、逮捕されたエピソードについてお聞きしたいのですが。この件には証拠写真があるんですね。
白鳥 逮捕された瞬間が写真に残っているなんて珍しいでしょ(笑)。これは、昭和27年ですから、二年生の時ですね。~中略~すごく大きなデモがあった時にビラをまいていた女子学生がいて、機動隊がバーッと駆け寄ってきて彼女を逮捕したんです。で、私が憤然として「逃げろ!」ってさけんだわけですよ。そしたら、そう言っただけで機動隊が飛んできて、あっという間にトラックに乗せられちゃったんです。~略~ただ、父には「でかした」とかほめられました(笑)。~略~
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【浦山桐郎夫妻・白鳥信一・あかね 合同結婚式事件】
---ここで、伝説と言われている浦山桐郎夫妻との合同結婚式について伺えればと思います。
白鳥 浦山桐郎と白鳥は同期で仲が良かったんですが、ある時、京王線の電車の中だったと記憶しているんですけど、浦山から「あかね、お前、トリ(白鳥信一)と結婚したいのか」って聞かれたんですよ。私が「うん」と答えたら、「じゃあ、おれに任せるか」。「いいよ」ということで、浦山はすぐ、その足で今村昌平さんのところへ「実は、おれとトリは二人とも結婚したいんですけど、つきましては、お金がないので面倒をみてください」とお願いに行ったんです。要は、自分が結婚したかったわけですよ(笑)。  ~略~
白鳥 今村さんは、親分肌ですから、じゃあ任せろって感じでね。
 結婚式自体はほんとにお手軽だけど、今村さんが住んでいたアパートのすぐ近くの幡ヶ谷公民館で会費二百円というすごい安い費用でやったんです。ちょうどその頃、川島雄三監督の『幕末太陽伝』の撮影をやっていて、チーフが今村さん、セカンドが浦山だったんで、その流れで南田洋子さんた左幸子さんも出席してくれて。司会もフランキー堺さんと小沢昭一さんでした。仲人が堀地清さん、斎藤武市さん、鈴木清順さん、今村さんの四人。滝沢英輔さん、川島雄三さんも来てくれました。~略~
白鳥 実は、あとで知ったんですけど、うちの旦那も結婚式の前の晩に「おれ、どうしても結婚しなきゃあいけませんか」って今村さんに泣きついたらしいんですよ。一種のマリッジブルーで、もうちょっと、独身を楽しみたかったんじゃないですか。そしたら、イマヘイに「馬鹿もん!」と一喝されて(笑)。~略~
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【白鳥あかねストリップ事件~『濡れた濡れた欲情 特出し21人 監督:神代辰巳、主演:片桐夕子】
---そして、撮影終了後の打ち上げで白鳥さんのストリッパー問題が起きたそうですね(笑)。
白鳥 そうなんです。最後の打ち上げの日に、私が姫田さんと相談して、あんなにストリップの人たちが誠心誠意尽くしてくれたんだから、最後の時ぐらいは私たちが踊りましょうということになったわけ(笑)。舞台の上に薄べりを敷いてテーブルと座布団を並べて、それから打ち上げですよ。最初は姫田さんが頭にカツラをかぶって、スッポンポンになったら、踊り子のお姉さんたちが喜ぶこと、喜ぶこと。その次が神代さんだったけど、黒田節なんか歌ってカッコつけちゃって脱ぎもしないのね。それで私はムッとして脱いでやれって思って上半身脱いで踊ったんですよ。そしたら、照明さんが喜んじゃって照明を当てるから、ますます気持ちよくなってね(笑)。一緒に踊った外波山文明もスッポンポンになって、私も全部脱いじゃおうとかなと思ったら、トバさんが「あかねさん、やめてください!」って止めるんですね。私は気持ちが良かったんですよ、あんなにお姉さんたちが泣いて喜んでくれてるしね。それで意気揚々と撮影所に帰ったら、秋山みよさんに呼ばれて、「あかねさん、スクリプターはストリッパーではありません」って叱られて(笑)~略~
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 この他にも「小林旭・靴下取替え事件」や「吉永小百合に一晩中看病してもらった」話や現場で渋る片桐夕子を説得し、演技指導までしたもんだから「横師」と呼ばれたとか、面白さ満載なのでぜひご自身でお読みください。あっ!それからスチール写真が豊富なこと、この現場をささえた映画人たちの若々しい姿が残されている。(威風堂々たる白鳥あかねの雄姿も多数)

 この大変中身の濃いロングインタビューを読み終わって、祭りの後のような感傷的な気持ちになっている。「明日に向かって撃て」の最後で、ブッチとサンダンスが飛び出したときの轟音の後…、「八月の濡れた砂」のラスト、青い海を漂うヨットを俯瞰で映し、そこに石川セリの歌がかぶさって終わっていく…、あの頃の映画を見たような気がしている。
 それは、池田敏春の自殺・神代辰巳の死、そして多くの映画人が亡くなっていったということだけでは無いと思う。
 映像表現は、これからも続いていく、もっと手軽に誰でも作れるようになっている。プロの作る「映画」も無くならないだろう。でもそれは、白鳥あかねが人生をかけ、高崎俊夫やわたしがたとえば文芸地下でスクリーンに見ていた、「映画」とは別のものだろう。途中でフィルムが切れて映写が止まるようなことも無くなったけれど。

 白鳥あかねがインタビューの最後で言っている言葉を書き写して終わる。
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白鳥 ~略~今は地域からどんどん映画館がなくなってしまって、映画館で映画を見る習慣というのが失われてしまっていますね。でも、家庭用の受像機がいくら大きくなって、DVDやブルーレイの画質がよくなっても、映画館の暗闇で見なければ、映画のほんとうの値打ちはわかりませんよね。そのためにもなんとか、子供たちや若い人たちに映画館へ来てもらわないといけない、映画の素晴らしさを伝えなければいけないと思っています。~略~ 
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