10年前を語らう書
気づけば10年前に明確な思い出がある年齢にとっくになっていた。
中学生の頃、高校生の頃、10年前とは幼稚園や小学生の頃であり、思い出はどこかあやふやでまだつい最近のような気もして、振り返ってもそこまで思い入れは無かった。
ああ、楽しかったな、ああ、なんかそんな嫌なことあったな、そんな程度。
ベッドに寝転ぶ日曜日の夜、突如脳内に流れ出した曲があった。何となくMVを観たくなって調べてみる。YouTubeを開いてみると「サムライハート Some Like Hot!!」の新バージョンのMVが偶然にもオススメに載っていた。
凡そ2週間前に公開されたものだ。
SPYAIRはボーカルのIKEさんが持病の悪化で昨年2022年に同バンドを脱退、そして今年2023年4月に新ボーカルのYOSUKEさんが加入したらしい。
ボーカルが変わってサムライハートも新しくなった、そして新たにMVが出されたということのようだ。
私の脳内に響き渡ったのはまさにこの曲だった。
私は別段SPYAIRのファンというわけではないが、アニメを趣味として嗜む故、曲も幾つか聴いたことがある。結構好きだ。
アニメ「銀魂」のOP・ED曲は複数あるが、その中でもトップクラスの知名度と人気があるのは「サムライハート」じゃなかろうか。いや、「曇天」だ、「バクチ・ダンサー」だといった意見もあるだろう。「バクチ・ダンサー」、自分もめっちゃ好きである。何だろう、あの独特のちょっとダウナーな歌声とアップテンポな曲、バクチダンサーとは何なのか、個性的な世界観が広がりつつも3分足らずで終わってしまう潔さ、魅力の塊だ。
閑話休題。
「サムライハート」が世に出されたのは2011年6月、既に12年前。自分は中学2年生だ。
この時はまだアニメ、2次元にハマっておらず銀魂も全く知らなかったので「サムライハート」も知らなかった。
この時自分がハマっていたのはAKB48だ。前田敦子推しで握手会にも行き、グッズを買い集め、CDを買い集め、学校の行き帰りには小学生の頃塾の模試の成績優秀者の景品で貰ったiPod shuffleでAKBの曲を聴き漁っていた。東京ドーム公演にも行ったのを覚えている。
「サムライハート」という曲を認知したのはいつだろう。
多分高校の頃に同期がバンドで演奏したのを聴いたところかもしれない。
恐らくだが私と同世代の男子はこの曲に少なからず胸を鷲掴みにされた経験があるのではなかろうか。
頭に残りやすい曲調、小気味良い歌詞とボーカルの少しハスキーでパワフルな歌声。歌詞の内容もどことなく寂しさを感じつつもそれでも1人でも何とか踏ん張って、いや周りの人達も巻き込んで必死に何かどこかへがむしゃらにでもいいから進んでいきたい。そんな気持ちになる。
凡そ10年前周辺とは私が中学生から高校生の頃だ。
あの頃は別に10年後なんて考えても分からないしそもそも気にしていなかった。
日々、友人達と馬鹿話を繰り広げては笑い合って、毎日の授業や試験を何とか乗り越えて、部活を楽しく過ごしていた。アニメにもハマり始めて色んな深夜アニメを観たりもしたし、夏目漱石や村上春樹をはじめとして色んな小説を読んだりしていた。
本当にただ純粋に1日1日を濃く地に足つけて一歩一歩過ごしていた。
残念ながら異性との交流なんてものは男子校だった故、カケラもなかった(し、今も全く無い)。女子と過ごす甘酸っぱい青春も欲しかったなという後悔は無いわけではないが、それでも楽しかったと今振り返ると強く思う。
そう、振り返った時に楽しかったなという、今の自分からすると少し哀愁を感じるものが10年前という時間に発生している。
1日1日を過ごすことに必死になっていた自分は気づけば色んなものを経験して通り抜けて今こんなところまで来た。
あの頃は気にもしなかった「次の10年後」というものを今の私は気にするようになってしまった。
10代の頃の自分は10年後も20年後も30年後もあると信じて疑わなかったし、その有り様が大きく変わりうるということは頭では何となく分かっていても実感としては分かっていなかった。
でも今の自分は違う。
人の命は儚いし、どんなものも意外と呆気なく無くなってしまう。
一寸先は闇なのだ、この世は、何事も。
このエッセイを書いた1分後に心筋梗塞になって自分が死んでしまう可能性は0では無い。
この10年で色んなものが変わった。
それは自分もそうだし、自分の周りもそうだし、世の中もそう。
10年前を振り返って「あの頃は良かった、楽しかった」、そんな切なさは時に「それに比べて今は・・・」という感情になりがちだ。
確かに10年前の方がアニメだって面白いものが多かった・・・ような気がする。
でもそれは単にあの頃とは自分の感性のアンテナが折れ曲がってしまったからなのかもしれない。
「サムライハート」だって前の方が良かった、そう思う人もいるのかもしれない。いや、自分は少しだけ思ってしまった。
でも、その「今」が10年前の自分にとっての「その時」になっている人がまさにこの瞬間もいる。
彼ら彼女らは多分純粋に1日1日を一歩一歩踏み締めて過ごしているんだと思う。
そう思うと、「今」も悪くないじゃん、ちょっとだけそう思える。
「次の10年後」を心配するようになった自分はもう捨てられない。でももう少しだけ「今」を一歩踏み締める感覚を忘れないようにしたいと思う。多分このエッセイはその為に今後も書き綴っていく。
これは「今」を踏み締める為の場。
頑張れ、新生SPYAIR。
HEY HEY 僕だけが僕を作るんだ
泣いたって笑って憎んだって愛して生きていこう